ゲームと時間の主導権と4コマ漫画原作アニメ。

 

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※「マザー2」より、敵モンスター「うしなわれしきおく」

映像や音などの動的なメディアというのは大抵の場合「時間の主導権」を握っているのがコンテンツ側です。ラジオだろうがテレビだろうがなんだろうが、観客がスキップすることは不可能です。

これと対称的なのが静的なメディアです。本であれば勝手にページが進むこともなく、上のコマを読みなおしたりまた戻ってみたりと実に自由に観客が制御出来ます。

この静的なメディアの中にある「4コマ漫画」が動的なメディアである「アニメ」に変換される際に、いくつかの問題が生じます。

 

大きなものでは「全部読んだ後の題名がオチ」というものが使えなくなります。大変な損害です。大損害です。まんがタイムきらら系のマンガの面白さの2パーセントぐらいは題名オチにあるからです。
そして何より大変なのが「時間の主導権をコンテンツ側が握ってしまう」ということです。解説めいた長台詞のツッコミは声優が読み上げるのを待たなければならないし、スパスパと次のコマに進んで笑ってもらうためのネタが長ったらしく、間延びした物になってしまうことが多々あります。これはアニメ銀魂あたりが直面した問題ですね。(僕はあまりアニメ版の銀ちゃんや新八の長い説明調ツッコミセリフが好きではありません。)

つまり、絵コンテを切ったおじさんの支配下で「他人による読み聞かせ」が行われているのが4コマ漫画のアニメ化であり、人によってあらゆる読み方をされる4コマと非常に噛み合わせが難しい物だと私は思います。他人が面白いと思った読み方で4コマ漫画が進んでしまうのだからそこはもう仕方ないでしょう。


さて、ゲームです。ゲームは動的なメディアと静的なメディアのハイブリッドです。せっかくゲームを買ったのですから、全てをプレイヤーが支配できればよかったのですが、悲しいことにゲーム側に時間の主導権が握られてしまいます。むしろディスクメディア世代に入ってからはプレイヤーは如何に時間の主導権を取り返すかの戦いを続けて来たともいえるでしょう。

フルボイスのセリフ、カットシーン、イベント、技術革新は作り手にあらゆる表現の方法を与えました。戦闘を終えたらキャラとの会話、ボス戦を進めれば途中で劇が始まる、やっとボスを倒したと思ったらまたイベント。見ている時間も聞く時間も、プレイヤーがコントローラを握る必要はありません。

プレイヤーは怒りました。お前らの見せたいものは分かったが、我々はそんなもの見たくもない。一度ぐらいなら観てやってもいいが、何度も何度も観てやることなど我慢できない。せっかくゲームを遊んでいるのに、我々からコントローラを取り上げてテレビ番組をはじめないでくれ。その退屈なテレビ番組を見たくないからゲームソフトを買ったのに……と。

製作者は考えました。イベントを見せたい。イベントは演出が自由だ。イベントはプレイ時間をかさ増しできる。「……そうだ!イベント中にボタンを押させてやればいいんだ!そしたら怒らないに違いない」
QTEのもたらした暗黒期について多くを語るのは止めましょう。

再び技術革新が起こり、ようやく観客に「時間の主導権」が戻りました。イベントはスキップ可能になり、セリフもボイスを再生せずに一括表示が可能に。もうこれで退屈ではなくなりました。便利機能は「当たり前」になり、便利機能を搭載しないゲームはクソとなじられるようになりました。


スキップの快楽は更に加速していきます。

元々「こんな所でレベル上げしたくない!」「もう最強武器手に入れるために戦闘をさせられたくない!」と暗に主導権を握られるのを嫌がっていた人々が利用していたセーブデータ改造ツール。これを根絶するよりは、スキップ欲を解消するためのアイテムを用意してやるほうがよっぽど賢いやりかたです。

斯くして、ゲーム業界には経験値やゲーム内通貨そして強力な装備アイテムという「ゲームスピード加速装置」、すなわち「ブースター」が溢れました。

はじめは良かったのです。ゲーム本来のスピードに飽き飽きした人間だけが、ブースターで駆け抜ければよかったのですから。

気付いた時にはもう手遅れでした。現在のゲーム世界の時計は1秒で1秒分進みません。ブースターで加速することが前提のゲーム世界が出現したのです。加速しなければついていけず、加速せぬものは膨大な時間を費やすことを余儀なくされるのです。

 

人々は考えて、考えて、ある答えを出します。

それは動的なメディアであるテレビ番組から時間の主導権を取り戻した時と、全く同じ方法でした。
退屈なアニメやドラマだって、15秒飛ばしで見ていけば不快にはなりません。CMどころか本編だって、眠いなら飛ばしてしまえばいいのです。飛ばされるのはそんな眠い風に作った馬鹿でおバカな製作者が悪いのです。「ビデオテープ」にダビングし、「HDDレコーダ」に録りためた番組なら、動的なメディアだって掌の上なのです。

裏切られること無く、DLCで毟られることもなく、時間を無駄にすること無く、食べたいところだけ食べられる理想のゲームスタイル。究極の加速装置である「シークバー」を携えたその名こそ。

ゲーム実況動画です。

ゲーム実況動画は、プレイヤーを裏切り続けたゲーム制作者への、プレイヤーからの「NO」なのかもしれません。