バイオショックインフィニットレビューと考察 前編

bio

バイオショックインフィニットをクリアした。この文章は、1周目のスタッフロール開始から書き始めている。前評判、というか異様なまでの大手メディアの持ち上げっぷりから少々不安ではあったのだが、それは杞憂に終わってくれた。

いやあ、待ったぞバイオショックの新作。待った。超待った。2010年から3年ぐらい待った。出るかなと思ったら1年も延期したけど待った。待ったけど……

楽しみにしてたシーン、丸々ボツになってるじゃないか!
こんなシーン無かったぞ!一つも!

というわけで、ストーリーとシステムごった煮の感想と考察である。


空ですが、バイオショックでした。

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豊かで、成功していて、悩み事なんて何もなくて、まるで嘘のように綺麗な天空都市コロンビア。序盤20分は非常に楽しい観光タイムだ。祭りの出し物として「今回のプラスミドはビガーですよ」「今回はこうやって撃ちますよ」「平和そうに見えて黒人がネチネチといびられてますよ」「近接攻撃も完備ですよ」を導入するのもばっちり。

そして何より、預言者カムストックを中心としたアメリカトンチキ宗教には笑った。ラプチャーでは「アトラスって偉いよね」ぐらいの扱いだったのに、コロンビアには絶対的な宗教が横たわっている。既にニヤニヤが止まらないというのにこのゲームはその「嘘」をどんどん畳みかけてくる。現地警察にとっ捕まりそうになったので暴れてみれば「偽りの羊飼いだ」「反逆者だ」と町中で警報が鳴り響くんだからたまらない。

それが頂点に達するのは「モーター・パトリオット」(原動機付愛国者)の初登場シーンだろう。ガシンガシンと足音がするので何かと思ってみればコロンビア国旗―州が独立してるので星が1つしかない―を翼のように背負った、ゼンマイ仕掛けの2メートル級ワシントンロボが部屋の奥から歩いてきて、事もあろうかガトリングガンをぶっ放してくるのである

海底都市じゃないけども、しっかりバイオショックしていた。
それだけでまずは安心した。


システム:
バイオショックですら逃れられなかったCall of Duty化。

バイオショックインフィニットの前作との最も大きな違いは、殆どの敵がただの人間である事だろう。バイオショック1・2の敵はどいつもこいつも特色溢れるスプライサーだったが、インフィニットの敵は銃を撃ってくる警察、軍隊、及び反体制組織「ヴォックス・ポピュライ」の人間たちだ。特殊能力使いはあんまり出てこない。ただまあ、銃の種類は豊富だ。そしてその銃だが、プレイヤーが持つことができるのはたったの2つである。事あるごとに武器を持ち替えて戦う姿は、前作までのものと異なっている。

そしてそれに次ぐ変更は、基本的に来た道を戻らない「レールシューター化」であろう。従来の「新エリアに来たからあっちにいってこっちにいって」という感じではなくなり、「敵の待ち受ける場所へ進んでは一戦交える」というありきたりなものになってしまった。

とは言え「探索している感じ」が消えたわけではなく、Half Life的な「楽しい寄り道」が沢山ある。左に進む道ならまずは右へ。通りに出たなら入れる店を探す。一仕事終えた帰りの道にも敵はどんどん出て来るし、寄り道した部屋から出ようとしても敵が出て来るのでそこは退屈しない。隅々まで探索しておけば暗号ノートでご褒美は貰えるし、鍵開けも面白い。

Bioshock-Infinite-Skyline

エリア移動と戦闘中の回避・高速移動を兼ねた「スカイラインという新要素は思いのほか上手く行っている。よそのゲームよろしく「空中から飛び掛かってダイレクトアタック」も出来るし、ぶら下がったままの銃撃も出来るので面白い。敵も味方もこれを使うので自分だけが高速移動じゃないのもポイントだ。

どこかで見たことのあるシステムである「シールド」と「体力」の切り分けも良い。もっと言うなら体力も戦闘を終了する度に自動回復にしておいてくれればいろいろと手間が省けたと思う。ビガー(前作までのプラスミド)を使った戦闘もいつも通りの面白さだ。というか変わり映えが無い。変わらないからこそ安心して超能力バトルが出来る。電撃で足止めして撃ち抜き、カラスで足止めして撃ち抜き、敵を浮かせてブッ飛ばす。面白い。

ここまでは良いのだが、一部の「だだっ広いマップ」で「遠くからもバシバシ当ててくる敵」に遭遇すると話は変わる。前作と違いファーストエイドの無いシステムで「ゼロ秒で着弾する攻撃たち」に一瞬でシールドも体力も溶かされて、自力の回復もままならない。死にかけて真っ赤に染まる視界。割られたシールドを回復する為にヒィヒィ言いながら遮蔽物から遮蔽物へ移動し、シールドの自動回復を待つ。自動回復中に敵キャラが近づいて来たらさようなら……嫌と言うほどCall of Dutyで見た光景が、天空都市コロンビアに再現されてしまった。

「ゼロ秒着弾攻撃」の敵が余りおらず、接近戦か見てから避けられる遠距離攻撃だった前作。開発の長期化からいささか固さのぬぐえない「銃撃戦」の要素は、すっかりCall of Dutyに汚染されていた。と断言しても良い。Bioshockの「アクション」は残っていても、骨はCoDのそれだ。

Serious Sam 3のArachnoidの攻撃を可視化&回避可能にする
「No More Hitscan Arachnoids」 ≪ Mod
http://www.game-damashi.com/modding/201204/19295/

同じように「だだっ広い」「薄い装甲」「ちゃんとアクションするシューター」で、同じように古くからあるシリーズとしてシリアスサムがあるのだが、このゲームにも「スピード感のあるプレイを全力で殺いでくるクソ要素」としてArachnoidという敵がいる。リンク先にもある通り、こいつの攻撃はゼロ秒着弾で、「遮蔽物からチビチビ撃つ」事でしかそいつに対抗することは出来ない。改良MODが作られるほど、この要素はプレイヤーにうとまれている。

このCoD化の悪影響がいよいよ歪みとして出てしまったのが、「セイレーン」というボスキャラとの戦闘だ。「すぐ死ぬ」「弾切れになる」「MPも尽きる」というのに「敵は高速移動で大ダメージの接近攻撃」「銃器持ちの敵がゾロゾロと無限湧き」で本当にまいってしまった。変にCoD風にするならいっそ首絞めか投げナイフで一瞬で終わらせてほしい。皮肉の一つも言わないとやってられなかった。

言い方が悪くなってしまうが、そんな風にインフィニットは「テンポを良くする要素」と「テンポを悪くする要素」が混在している。


戦闘システム:
噛み合う事の出来なかった強化と回復システム


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今作は各種消費アイテムだけでなく、銃とビガーの強化も金で行うようになった。それは良いのだが、これに「死亡に伴うペナルティ」が加わると話は別だ。前述したとおり、今作ではCoDばりに死ぬ。そして死ぬ度に金が減る。死ぬような人ほど強化が必要なはずなのだが、どうやらそうは出来なかったようだ。

銃の強化も問題だ。「ロクに弾薬が持てず」「2種類しか持つことが出来ない」のに銃の種類ばかり豊富で、強化した武器を使い続けることは正直難しい。好みの武器を強化した所で弾薬が尽きればそれまでだし、一度手放した後に再登場まで「金をつぎ込んだ銃」を手に取る事が出来ない。

ビガーも同様で、しかもビガー強化は1000コインとか1200コインとか取られるものだから流石に強化を躊躇してしまう。ビガーの場合はMPに相当する「ソルト」を消費する訳だが、前作のように注射器で大量に所持出来る訳でもないので戦闘中にビガーを撃ち切るとそこまで、という事になってしまう。

探し回ればソルト瓶が落ちていない事も無いのだが、「上限を設定してしまったのでステージ中を駆け回ってソルトを飲み飲み戦ってください」と言う感じで、どうにもちぐはぐな感じだった。「あらかじめステージに置いてあるアイテムを全部把握したうえで戦え」という事なんだろうか。私はプレイするうち、強力なビガーを使うのが、なんだか億劫になって温存してしまうようになった。

また、体力・シールド・ソルトの成長は特殊アイテムを消費して伸ばすタイプなのだが、これこそ金も使って成長させた方がいい。ポイポイと銃を入れ替えさせるスタンスで、ソルトの量も心もとないのならまず強化したくなるのはシールドとソルトのはずだ。

というか、そもそも金の手に入る量が限りがある=稼ぎを許さないデザインなのに、大真面目に「店から物を買う」という風にしてしまったのが間違っているのかもしれない。例えば武器の強化も金ではなく前作までの強化マシンのように1段階ずつ選んでの強化にしたり、デッドスペースよろしくパワーコアでの強化システムにした方が良かったのではなかろうか。

「稼ぎが出来ない」のなら「コイン制」は撤廃すべきだし、強化は専用アイテムや設備によって行われるべきだと私は思った。とは言え、気付けば400枚とか500枚とか手元に溜まっているのでちょいちょい武器の改造は出来たし、ビガーの強化も1つ2つに絞れば1周の内にフル強化は出来たのでそういうデザインと言われればそう言うデザインとして納得せざるを得ないが。

ロックピック3つ消費して金庫から出て来るのがコイン100枚だとか、そう言う事が続いた。すっかりこの「噛み合わない強化システム」への興味は薄れてしまった。


システム&ストーリー:

エリザベスに助けられるブッカー・デュイットと私。

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とまあグチグチ書いたがそんな事エリザベスの可愛さの前にはどうでも良い事だ。

エリザベス可愛い!超可愛い!みゆきちボイス可愛い!意外にワガママボディ可愛い!「これ欲しい?」とかコインちらつかせてくるの可愛い!短い小指可愛い!可愛い!

ゲームシステムだけ見れば、彼女は錠前を外したり暗号を解いたりする「ロック解除役」と、戦闘中にアイテムを投げてくれる「補給役」でしかない。下手すればギアーズオブウォーに於ける「ジャック」並みに裏方に徹し、イベントの時だけ現れる「RPGのパーティメンバー」のような扱いになってもおかしくない。だがバイオショックインフィニットはそうはさせなかった。

彼女の幽閉された塔で「どんな風に彼女が観察されてきたか」をプレイヤーに見せ、「彼女を救出したい!」と思わせるそうだが、「救出した少女が音楽に感動し砂浜を駆け、波打ち際で舞い踊る姿」に見惚れないプレイヤーがいるだろうか。いや、いない。エリザベス可愛い。

主人公であるブッカーはふわふわした記憶と、エリザベス救出の動機すら不確かなまま冒険を続ける。だけどもこれだけは確かだ。物語を勧めるうち、ブッカーも、そして画面の前のプレイヤーも「エリザベスの力になりたい」と思い始める。

これまた些細なように見えて大きいのが、「エリザベスはプレイヤーの前を歩く」と言う所である。常に自分の前を歩いてくれるし、敵を倒して廊下を走るときは一緒になって走ってくれる。只のAIだというのに、キャラから「前に進む力強さ」を感じたのは初めての感覚だった。どこまでも二人の冒険なのだ。

ゴンドラを待ちながらコロンビアを語り、エレベーターのなかで他愛もない事を喋り、店の中で埃にむせながら一緒に宝探しをし、道端の死体に嘆き、可愛らしいチョーカーに笑う。ボイスメッセージと「キャラクターの語り掛け」でしか描かれなかったゲーム世界が、少女と主人公の対話で鮮やかさを増していく。この点でバイオショックインフィニットは従来のゲームとは一線を画する。

この手の作品でありがちなのが「相棒も戦うものの、死なれるとゲームオーバー。やり直し。」というストレス要素。その点、エリザベスは自分で身を守れる……という設定で敵にそもそも狙われないので問題なし。彼女は何処から見つけたのか、回復アイテムをばしばし渡してくるので心強い。と言うか、弾切れも早くソルト切れも速いので段々彼女に頼るようになる。そう言う風にできている。乱戦のさなか「ブッカー!受け取って!」と銃を投げ渡すエリザベスに「ありがとよ!」と返し、敵に向き直す。切れ目なくゲームは続いていく。

ゲームに慣れ、「銃を撃つだけが共闘じゃない」と感じるようになったあたりで、ふとエリザベスと離れ離れになる。ゲーム開始時点からずっと1人でやってきたはずなのに、私は何処か心細さを感じた。そこで初めて、どれだけエリザベスに助けられていたかを思い知ったのだ。彼女に会わなければならない。コントローラを握る手にも力が入った。

バイオショックインフィニットは、手に汗握る「冒険活劇」である。ちょっと歳くったおっさんと少女の、今時珍しいくらいの「ボーイミーツガール」である。ボーイって歳じゃあ、ないけど。


コロンビアの上を走るシステム

エリザベスによる「コンビ物」の表現は大成功であり、またCoD化も受け入れてみれば「能力ありのシューティングゲーム」として一定の水準にある。強化システムこそボタンを掛け違えてしまった感は否めないが、それでも「悪い」「最悪」の部類でも無い。無難だ。

「目を見張るほど素晴らしい斬新さ」は一つ一つのシステムだけをとりあげても見られないが、その一つ一つが重なって「最新のバイオショック」として名に恥じない出来にはなっている。

さて、そんなシステムの上で、どんな物語が展開されるのか。その物語についてどう思ったのかは後編で。