売り切りゲームの「便利な有料アイテム」を僕が心から憎む訳。

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サクセス|ゲームモード|実況パワフルプロ野球2013 PS3/PSVITA/PSP【公式サイト】
http://www.konami.jp/pawa/2013/mode/success.html

聡明な読者の皆様ならご存知だと思うが、パワプロ2013は予約段階の時点でサクセスでのガチャ権を猛プッシュしており、実際にサクセスモードでのアイテムもこのように販売している。パワプロと言えばADVやミニゲームと野球を組み合わせた選手育成の「サクセスモード」が売りであり、「本編」と言っていいであろうそれにこのような救済措置や加速装置が用意されたわけである。

ドラコレ商品情報サイト | ドラゴンコレクション
http://www.konami.jp/products/sns_gre_dragoncollection/

コナミと言えば、大体のガチャゲーの元になったドラコレで一時代を築いた会社である。バンナムの悪行三昧ばかりが騒がれる世の中だが、こんなかんじでコナミのゲームもすっかり汚染されてしまった。

 

さて、ここで伊集院光がこんなことを言っていた。

伊集院光パワプロの課金制で、プレイする気が失せた」 | 世界は数字で出来ている
http://numbers2007.blog123.fc2.com/blog-entry-2780.html

やっぱりゲームの面白さの中心のところに、お金でなんとかなる、とか小銭を稼ぐっていうのは、絶対に間違ってると思うんだ。

 

公式チートであるブースターなど、利用したい人が利用していればそれでいいじゃないかと思うかもしれない。だけども、「そう言った手段が用意されている」というそれだけで、怒りを表明する人もいる。今回は後者の人間である私から、何故そういう物があってはいけないのかの話をしたい。

端的に言えば、それはゲームを否定する行為だからだ。


「こうすれば楽だよ」が「こうしないのは無駄だよ」に変わる時。

分かりやすい例としてダイジョーブ博士を出そう。ダイジョーブ博士サクセスモードの期間中にランダムで現れるキャラクターである。彼に「今より強くなりたい!」と強化手術を依頼すると、選手のパラメータを大幅にアップさせることが出来る。……失敗しなければ、の話だが

さて、運悪く強化手術が失敗してしまったとしよう。ここでプレイヤーに与えられる選択肢は3つだ。

  1. 能力回復の救済イベントがあるのでそれを期待してプレイを続行する
  2. セーブデータバックアップのできる機種であればそこまで巻き戻してプレイする
  3. この選手の育成は失敗したと諦めてニューゲームを始める

1を選ぶ場合、遊んでいた今までの時間は無駄にならないが「成功した筈の選手」よりは良い選手にはならないことだろう。育成は消化試合となり、ぼちぼちの結末へ向かってゲームを進めることになる。大枠で見れば理想へ向かえなかっただけ、プレイ全体が無駄になったといえるかもしれない。

2を選ぶ場合、バックアップを取った時点から今までの時間が無駄になる。が、ぼちぼちの結末を回避できる。育成は消化試合とはならないし、プレイ全体も無駄にならないだろう。この手段も意識してセーブを行わなければならない機種やバックアップの出来る機種に限定されるので、オートセーブ全盛の今では少しむずかしいかもしれない。

3を選ぶ場合、長い時間をかけてプレイしてきたサクセスモード全てが無駄になる

 

無駄、無駄でないで括るとこんな感じになる。「おいおい、ゲームってのはそうやって試行錯誤するのが醍醐味ってもんだろう」とツッコミたくなったなら、どうかそのゲンコツはまだ振り上げないでいて欲しい。本題はここからだ。

 

コナミが用意したのは「思い出の砂時計」という、ゲームの進行を一週間巻き戻すアイテムである。1個300円。これを使えば失敗を取り戻すことができる。試合で負けたことも、ダイジョーブ博士の手術が失敗したことも

第4の選択肢である「思い出の砂時計を使う」だが、これは上の1~3に比べると非常に強力な選択肢だ。何せ無駄になるのはたった数分ぼちぼちの結末も回避できる。失うのはたった300円だ。利用しない手はないな。うん。

 

ゲームとは試行錯誤の繰り返しである。最良の結果を最短で叩きだすために、ありとあらゆる手段を用いて模索する遊びである。それは即ち無駄を省いていく遊びである。

このような金で解決できる手段が存在すると状況は一変し、金を払う払わないではなく「こうすれば楽だよ」という親切なアイテムは、ゲームそのものを「こうしないと無駄だよ」という物に変貌させてしまう

ダイジョーブ博士の手術が失敗したから続ける?そのままゲームを続けるのは無駄だ。300円払って手術をやり直すなり、手術を受けない方が絶対にいい選手を作れる。300円を払わずに、今まで遊んだ時間とこれからゲーム終了まで遊び続ける時間そのものが無駄にするなんて馬鹿みたいじゃないか。最良の方法は300円払うことに決まっている。

ダイジョーブ博士の手術が失敗したからロードする?バックアップが何時間も前だったらどうするんだ。そんな原始的な作業をするほうが無駄だ。300円払うだけで先程の過ちが無かったことになるのにもう一度時間を使うなんて馬鹿らしい話だ。第一、そこまでで起きたランダムイベントがもう一度発生するとは限らないじゃないか。手術失敗まで万事が上手く行っていたのにやり直すのか?

ダイジョーブ博士の手術が失敗したから新しく選手を作る?300円をケチって何時間君は無駄にするつもりなんだ。あの勝った試合やランダムイベントでついたスキルや特殊能力も捨てる気なのか。今まで積み重ねてきた事を破棄するなんて無駄極まりないじゃないか。

 

対象になるのはダイジョーブ博士の手術の成否だけではない。彼女とのイベントで上がる能力や回復する体力、一打席勝負での特殊能力、投手ならば変化球取得、大事な試合の勝敗、ありとあらゆるものがこの巻き戻しの存在により「無駄化」していく。

最も効率のいい方法を無視することなど出来ない。
それが開発側から明示された手段ならば尚更だ

これはよく言われるチートとはまたわけが違う。チートの場合はチート用の機械を別途購入したり、「コンソール」と呼ばれる物を呼び出してコマンドを入力するというゲームシステム外の行動をすることになる。だが有料アイテムはゲームシステムに正式に、公式に組み込まれたものだ。

「このゲームの最適解は、カネを払うことでした」だなんて、寂しいことを言わないで欲しいんだ。
「別に遊ばなくていいよ、カネ払ったら同じことになるから」だなんて、言わないで欲しいんだ。


「続編のための」と銘打たれたものに搭載されたのは

ブレイブリーデフォルト フォーザ・シークウェル』
新システム導入の意図を、浅野プロデューサーに直撃! - ファミ通.com
http://www.famitsu.com/news/201310/19041892.html

物議を醸しているのはパワプロだけではない。スクウェア・エニックス社の新作RPGブレイブリーデフォルト」の完全版なんだか体験版なんだか廉価版なんだかわからん「フォーザシークウェル」でも同様の不安が指摘されている。

ちなみに、誤解のないように説明しておくと、本作はSPドリンクを使わず、毎日2、3回のブレイブリーセカンドの使用を前提にしてバランスを調整しています。

インタビューによれば「ブレイブリーセカンド」はターン制コマンドバトルのこの作品で「ずっと俺のターン」をする必殺技のようなものである。この必殺技はゲームを起動したままスリープすることにより、8時間に1回の使用権が貯まる。そしてこの溜めた必殺技の使用権を使って、ゲームをプレイして欲しいとの事だ。なお、この使用権3回は別途有料販売される予定である。

さてまだ出てもいない物に人々が声を荒げるのは何故か。大きく分けて2つある。

1つはスタミナ性そのものへの懸念である。

「起動したままスリープにより貯まる」に「使用を前提として調整している」は、言い換えてみれば「必殺技を使うためにスリープさせなければならない」だとか「ポイントが貯まるより先にゲームを遊び過ぎたら必殺技が使えないためにゲームを先に進められない」だとか、そういう事が十分にあり得る。

そしてそれはゲーム内で何らかの活動をすることで貯めることがままならない。ポーションエーテルに万能薬、店売りの武具の準備が足りないというのであれば金稼ぎをして物を揃えればいいだろう。だがスリープでしか貯まらないのであれば「遊ばない」という選択肢しか選びようがない。日課をやり尽くしたどうぶつの森というわけでも無いのに、ゲーム側に「遊ぶな」と言われる可能性がある。

そしてその「遊ぶな」に対して「いやだ、俺は遊びたいんだ。そのために何千円も払わされたんだぞ」と反抗するのであれば、金を出す他無い。ゲームの時間の支配権は消費者でなく、例えリリースされた後も販売者に握られている。その事への懸念である。

 

もう1つはバランス調整そのものへの懸念だ。

毎日2、3回の使用を前提に調整されている、とは言ってはいるものの、その言葉が本当とは限らない。「基本無料ゲーム」は「無料」と銘打ちながら、その実は「カネを払うこと前提のゲーム」であった例は枚挙に暇がない。そしてブレイブリーデフォルト フォーザシークウェルにもそんな「有料の消費アイテム」が搭載されている。商売なのだから、金を支払うまでの導線を整備しないわけがない。という懸念である。

要するに、こちらはスクウェア・エニックス社そのものに既に信用がないという事に他ならない。コナミパワプロに、バンナムアイマスジョジョエースコンバットガンダムにしたように、お前もパッケージ料金を払わせた上で更に金を払わせようとしているのではないか。これは単に課金アイテムを売るための土台でしか無いのではないか。……という懸念である。

これは「ゲーム自体を信じられるか」「開発者を信じられるか」という話である。ブレイブリーセカンドを使用しても負けた場合、また、ブレイブリーセカンドが使えなくて負けた場合、プレイヤーの脳裏に過ぎるのは「SPドリンク買えばいいんじゃないの」という悪魔の囁きだ。その悪魔の囁きは有料のSPドリンクなどハナっから使う気のない人の耳にも届く。発売前から堂々とそう開発から宣言された要素なのだから。これを気にせずに遊べという方がどうにかしている。

 

これは単純に「フルプライスゲームに追加の金を払わせる」という行為自体が気に食わないから騒いでいるとか、そんな問題ではない。「続編のための」という旗の下、一つの商品が気持よく遊べない何かとして生み出されるかも知れないという、恐怖にも似た話である。フォーザシークウェル。「続編のため」と銘打たれたこのゲームは、果たして初回に数千円金を払ったとして、「遊べる」のだろうか?


消費アイテムはゲームを拡張しない

レアドロップを求めて戦うことも、店に並んだ商品を買うための金稼ぎも、レベルが足らず経験値稼ぎのために戦うことも、「金で解決できるよ」と言われたその瞬間、「金で解決できることを何時間も行う馬鹿」としてプレイヤーは扱われる。開発側がそう思わなくとも、プレイヤーが「そう言われた気になる」の時点で不信感を抱くには十分だ。

「時間を金で買う」

その言葉の元に売られるアイテムは……稼ぎや試行錯誤、あらゆる楽しみを、ゲームをプレイするという行為それそのものを味気なく、「無駄な行為」にしていくアイテムである。何?「時間を使うかお金を使うかの違いしか無いだろ」だって?冗談じゃない。僕はゲームにお金を入れるためにゲームを買うんじゃない。ゲームを遊ぶ、ただそれだけのためにゲームを買うんだ。

そしてその消費アイテムはゲームを拡張しない。戦うはずだった時間や、待つ時間を金で買って終わりだ。楽しいイベントや、ストーリーなどそれには付随しないし、2周目3周目のプレイには全く影響を及ぼさない。

 

先ほど「フルプライスに追加の金を払わせる」という行為自体が気に食わないわけではないと言った。なら僕はどういうものならば良いのかという話にもなるだろうから、書いておこう。僕が好きなのは「エクスパンション」だとか「アドオン」だとか呼ばれるやり方である。

風情も無く「日本円でこのアイテム幾ら」と投げつけられるものでなく、街や地域や大きな物語が追加され、探索やクエストを楽しんでクリアしたり数をこなし、そうやってゲームを「遊ぶ」ことで報酬としてアイテムをくれるような、そんな「ゲームを拡張するコンテンツ」ならば文句など言わない。

 

つまりだ、何を言いたいかというと……頼むから「ゲーム」を売ってくれ。僕の遊ぶ時間を無駄だと言わないでくれ。僕の遊びたい時間をそちらの都合で取り上げないでくれ。ただポンと便利なアイテムを投げつけずに、楽しい楽しい冒険を経て勝ち得た報酬としてアイテムをくれ。ゲームを遊びたいんだ。オンラインサービスの利用権を買わされる気なんかこれっぽっちもないぞ。ゲームの上で殺されて、失敗して、時間を盛大に無駄にして、確率に悩まされて、ゲーム世界でのたうち回りたいんだ。

そうやって遊び抜いて、ついに「出来上がったデータ」をみて、ああ遊んで良かったなって思いたいんだ。