複数人Coopゲーの中でL4Dが光る理由

その昔4人用ゲームと言えば画面が一つで済むボンバーマンや、画面を4つに分割しての対戦であった。時代は移り変わって2008年、満を持してValveからL4Dがリリースされ、協力なのに2人ではなく、4人なのに対戦ではないという新タイプの4人用ゲームが花を咲かせた。ほぼ同時にCoD:WaWではお金の概念のあるエンドレスゾンビディフェンスゲームが大ヒットし、ギアーズ2のHorde、少し時間を経て ODSTのファイアファイトが登場する。

元々これは2006年のレインボーシックス:ベガスにあったテロハン、更に遡れば2005年にアンリアルトーナメントのModとしてリリースされたKilling floorというゲームにまで行き着くことが出来る。元々アンリアルトーナメント2003の「Invation」というルールの時点でBot 撃ち+Wave制というルールは既にあったのだが、これをベースにし「タワーディフェンスのボスキャラ」や「CSやDotAのアイテム購入」を加えたのがこのKilling floorだ。元々はMODとして4年楽しまれていたのだが、2009年にはSteamでの単体での発売が行われるまでになった。

さて元がタワーディフェンスなのでこの手のゲームは「同じマップで死ぬまで遊ぶ」とか「同じマップでボスまで粘る」という事になる。どうしても飽きが来やすい。最後の一人を残してアイテムの回収をして次のWaveに備える、なんて状況にうんざりした経験もあるだろう。これに「どうやら平均は2時間ぐらいらしいぜ!」なんて安直な発想で50Waveなんてボリュームを用意してしまったのがHorde、乗り物やWave毎のアクセントを付けはしたけどもやっぱりダラけるのがファイアファイトだ。Horde 2.0でも所要時間は変わっていないので、未プレイの人はGoW3でも安心してダラダラ2時間遊んでほしい。
※UTのInvationルールはデフォルトで16Waveである。HordeのWaveは明らかに多すぎ。

このゲーム群の中でL4DがL4Dとして未だにユニークで居られるのは、これらのゲームと違い、マップにある程度のストーリー性を持たせ、一本道で「どんどんシナリオを進めていく」という要素があるからだ。固定の場所でタワーディフェンス状態になるのはクレッシェンド(ボタンを押して、橋が掛かったりドアが開くまで耐えきる)ぐらいの物であり、道中のラッシュはいつどこで起きるかが分からない。

セーフハウス以外に大きな区切りは無く、何もかもがシームレスに進んでいくゲームデザインが大きな魅力となっている。「このWaveは○○が出るね」ではないのだ。道を歩いていたらジジイが舌でぐるぐる巻きにされ、筋肉ダルマが筋肉ダルマにどつかれ、お調子者が小人に取りつかれた挙句酸の海に沈められているアクシデントこそがL4Dを面白くする。

そしてもう一つ。敵がそんなに固くない、というのが挙げられる。
他のゲームではWaveを経れば経るほど頭を狙わないと死なないだの自分の体力が回復できないだのとストレッサーだけが増えていくが、L4Dはずっと同じだ。その場の手持ちのアイテムが難しさを決めるだけであって、敵が2マグ当てないと死なないとかそんなことはあり得ない。難易度を弄っても「自分が失敗を許される回数が減る」≒敵の攻撃力が上がるだけで、決して「攻撃を成功させ続けなければならない回数」≒敵の体力が増加しな
いのは非常にうれしい。

多くのゲームが安直に「敵の攻撃力と防御力がとてもアップしました。どうでしょう、難しいですね!」なんて調整をする中、Valveならではのバランス感覚が光る。これがコナミのゲームならリアリズムEXでタンクとの戦いに最短でも10分は要するだろう。また、特殊感染者たちも「ダウンぐらいは取るかもしれないね」という調整で、決して殺し過ぎはしない。何度もセーフハウスからのやり直しを要求される事のあるこのゲームで、この調整はうれしい。

L4D2では延々と自然の中を歩かされる飽きの来易いマップが一つあるものの、その他の人工の空間を舞台にしたマップはどれもこれも傑作ぞろいだ。結果、製品寿命は大変長くなり、シリーズ最新作であるL4D2もMOD無しの家庭用機で3年の長きにわたって愛されている。

更にこれに彩りを加えるのがMODマップの存在で、面白い所だと「Minecraftの世界を舞台にしたL4D」なんてのも遊べる。多くのゲームが大型MODでのプレイを楽しむ場合、MODを導入したサーバにMODを導入した何十人ものプレイヤーが必要なわけだが、L4Dの場合は友人達3人に声をかけるだけで良い。これは大きい。家庭用の売り上げよりもPC版の売り上げの儲けの方が多いと言うのも頷ける。未だに全Steamゲームでのトップセールスに顔を覗かせる事があるのだから、最早L4Dの人気は本物だろう。

ハーフライフを見てFPS時代を予感してHALOを作らせ、UTやQuakeをみてネット対戦をHALO2で徹底的に面白くさせて、CSの盛り上がりを見てGears of Warのマルチプレイヤーの仕様にGoを出したMSだったが、GoW3とHALO ReachにはCoopゲームとしてまだ傑作と言えるレベルのモードは入っていない。Valveの先見性と品質管理、恐るべし。

対戦モードでは人間側はキャンペーンモードをいつも通りプレイし、ゾンビ側は特殊能力者を操作して人間を抹殺するのが目的となる。この人間とゾンビのやることのアシンメトリー、実はニンテンドーがずっとやりたかったことで、WiiUでようやく出来るようになったゲームの形なんじゃないかなあ。とも思っていたりするがそれはまた別の話。

さて、タワーディフェンス型でなく「マップを攻略しよう」と進んでいくタイプのCoopゲームを語る上で外せないのがハーフライフのMOD、SVEN CO-OPだろう。このMODはValve社から公式MODとしてサポートされており、13年(!)の歴史を持つMODである。このMODでは単に「敵の群れを何人ものプレイヤーでなぎ倒す」といったものから、「ここで二手に分かれよう」「あのスイッチを押してくれ、僕が奥に行ってくるよ」というギミック、更には「プレイヤーが協力して塀を上る」「メディキットで他人を回復」「弾薬を分け合う」というCoopゲーの基礎が作られたものである。ゴールデンアイの2年後には、もうCoopゲーの模索は始まっていたのだ。このMODは2012年現在でもマップパックコンテストや本体の更新が行われており、またHL1がベースである事から動作もそんなに負荷がかからない。もし何かの機会でHL1(Steam版でも全く問題ない)を手に入れた際は有志に声をかけ、10年前にも誰かが駆けた戦場をあなたも走りまわってほしい。

SVEN CO-OPの「メディキットを他人に使ってあげる」という要素は、まさにL4Dにおいて「巻いてあげる」という行為で実装された。BFもQUAKEもそうだが、海外のゲームはMODと二人三脚である。これは対戦ゲームに限らない。例えばベセスダのRPGであるTES4:オブリビオンでは「敵を倒すと経験値ポイントが手に入り、レベルアップの際にパラメータを割り振ることが出来る」というMODが人気を博し、これがFallout3で公式の仕様になった。また、Fallout3では「武器の強化改造パーツMOD」というのが注目を集め、New Vegasで新システムとして搭載された。スカイリムの要素もオブリビオンで数多のユーザが試行錯誤して生み出したシステムを参考にしたものが多く含まれて居る。

L4D2の最新DLCである「Cold Stream」は、もともとユーザーが作ったMODマップであった。マップのデザインや発想に着目したValveはこれを公式のプロジェクトとし、専用の音声やオブジェクトを追加してDLCとして配信する事になった。MODマップが好評を得て正式なマップセットに組み込まれることはよくある事だが、DLCとして格上げされるのは珍しい。TF2だけでなく、パッケージ販売したソフトも長い事サポートしてくれるのは嬉しい限りだ。

まだまだ、生存者たちはゾンビから逃げきれそうにない。

//Left 4 Dead Blog
http://www.l4d.com/blog/post.php?id=8309

07/25/12 Svencoopについて追記:DLCがリリースされました。
http://store.steampowered.com/app/550/