ガルパンに命を救われた私が4dxで体験した幾つかの事。

 
1月末にインフルエンザで数年ぶりに倒れた。
医師の診察によれば流行中のA型だそうだ。
 
医師は「休養」「水分」「栄養」の3つを大事にと、割とマジなトーンで告げてきたので、大人しくポカリスエットを買い込み、さて皆が仕事で忙しい昼間っからゲームをやってやるぞと気合を入れたところこれがまあ反射神経を要求するものが尽く遊べないのなんのである。
 
というわけで、私はガールズアンドパンツァーの一挙視聴を敢行したのであった。
 
するとどうだろう。
一話視聴時点で既に咳は止まり、
サンダース戦時点では頭痛も無くなり、
プラウダ戦時点でついに熱は36.5℃を下回ったではないか!
 
ガルパンはインフルエンザに効くのではないか…?」
 
私の中で疑念が確信に変わっていく。3話見てはローソンに足を運んで備蓄食料を買ったり肉まんを買ったりしてみる豪遊っぷりだったわけだが、明らかにその足取りが軽くなっている。
 
そして迎えた最終決戦。
黒森峰の行く手を遮るはレオぽんのポルシェティーガー
西住流に逃げは無い。
あの軍神西住みほはこの状況を作り上げたのだ。
 
西住みほならば。
あの女なら西住まほを倒し得る。
それを誰より知っているのが黒森峰の副隊長の逸見エリカなのではないだろうか。嗚呼。今行きます。待っていてください隊長。その叫びは届かない。いや、遅すぎた。
 
かくして、西住みほは、大洗女子は勝利する。
見つけたよ。私の戦車道。
 
ガルパン一挙を終えた私の身体には最早、荒れに荒れた喉を除き熱や頭痛に倦怠感といったインフルエンザの諸症状はなかった。ガルパン一挙によるセンシャカラテの大量摂取を行った結果、血中ガルパニウム濃度が急激に上昇しウイルスを駆逐したのだろう。
 
ありがとうガールズアンドパンツァー。
私は何度、救われたことだろう。
本当に。本当にありがとう。
 
※ちゃんと解熱から2日あけて出勤しました。
 
さて、そんなガールズアンドパンツァーの4DXである。
見に行かないわけがない。予約は取った。取ったとも。
雨やら風やらが凄いとのこと。ならば一滴たりとも逃すわけには行かないぞと、バリカンで頭を丸め、シックの四枚刃で入念に剃り上げた。
 
この記事は、ガルパンに命を救われた一人の男が、スキンヘッドでユナイテッド・シネマとしまえんにて劇場版ガールズアンドパンツァー 4dx上映に挑み、目撃した事とその身で感じた事をありのまま書いたものである。
 
 
さて、4dxだ。
4dx、噂には聞いていたがこのR-Gray初体験であった。
 
上映前の予告が終わるとIMAXの導入よろしく、カーチェイスの映像が流れた。その映像が流れ終わったと思ったら……映像が巻き戻る。先ほどのカーチェイスに続いて4dxの真っ赤な椅子が。と、気づいた時には
 
私は思い切り"揺さぶられ"ていた。
 
甘かった。
幾ら動くとはいえたかだか浮遊感程度だと思っていたのだF-ZEROAXやアフターバーナークライマックス程度だと思っていたのだ。それがこんな"ドキドキするほど揺さぶられる"だなんて、予想もしていなかった。
 
西住殿の3分ちょっとのガルパンおさらいが始まる。ゆっくり落ち着いて観てください。ああ西住殿、貴女は今4dxの銀幕にいるのですぞ。パンツァーフォーと言ってしまえば、始まるのはどう考えても最高の2時間ですぞ。いいのですか西住殿。パンツァー、フォー。
 
ダージリンが茶柱についてペコに話している間、劇場の空気がどんどん煮えていくのを肌で感じる。男も女も老いも若きも、その瞬間を待ちわびていたのです。これから何が起きるのか、大体予想は付くが一体何が起きるのか。ああ、絶対こんなの楽しいでありますよ西住どn
 
冷静でいられたのは、チャーチルの砲身をカメラが抜けるまでのほんの僅かな間であった。私は揺さぶられるどころか、座席からずり落ちそうなほどに"ぶん殴られた"のだ。しかも一回だけではない。聖グロリアーナの車両に向けて大洗と知波単が撃つたびに、前につんのめってはヘッドレストに数回頭を叩きつけて姿勢を立て直す。
 
とんでもない事が始まってしまった。
 
登場人物が話している間に誰かが発砲してさえ居れば、尻がぶるりと震える。4dxの導入動画にあったとおりだ。「Where are you?」とはこのことだったんだ。私は西住殿の隣にいる。私はエキシビジョンマッチの只中にいる。私は審判団の航空機の中にいる。ガールズアンドパンツァーの世界がそこにあるだけじゃない。あのときユナイテッド・シネマとしまえんは、間違いなく大洗だったのだ。
 
継続の面々が話している時も4dxはその手を休めない。ミカが何か言うとふわりと風が吹くのだ。「ただ振り回せばいいってもんでも無いんじゃないかな」と4dxが語りかけてくるようだった。
 
大洗市街地戦が始まると、それまでの事すら手加減だったと分かる叩き付けるような動きのオンパレードであった。ブレーキを踏めばつんのめるし、ノンナの戦車にぶっ飛ばされれば思い切り殴られるし、聖グロ最速がつっぱしれば思い切り振り回される。最早これは映画ではない。戦場だ。こんなところでポップコーンを抱いていたら吹き飛ばされてしまう。4dxならばカチューシャのミホーシャ馬鹿じゃないのの説得力も4倍である。
 
エキシビジョンマッチが終わったあとも、4dxは手をぬかない。潮風の中Ⅳ号に乗って学園艦に帰る時も風が吹いていたし、別れのバスの中でもエンジンの振動が伝わってきた。お菓子食べよう……お菓子だ……会長がなんとかしてくれる……
 
もちろん、戦車だけでなくスーパーギャラクシーが現れる時も、そして大洗女子の面々に相棒を届ける時も風が吹き、そして浮遊感と振動で持って臨場感を与えてくれる。そんな4dx殿も空気を読むのが、みほによる幼い頃の回想である。
 
風が吹き、揺れるからこそ「何も動かない」事によって目の前の光景に没入出来る。という新しい体験が出来た。ああ、変わっていないのだ。まほおねえちゃんは、まほおねえちゃんだったのだ。そういったメリハリもまた、4dxならではなのかも知れない。
 
そうこうしているうちに桃ちゃんが大泣きして、ねこにゃーがムキムキになって(ここで4dx殿が落ちたダンベルの振動を伝える)、決戦前夜の濃厚なみほ杏が終わったと思ったらもう試合開始直前だ。ここの一同勢揃いのシーンでも、こちらのときめきに合わせるかのような浮遊感が味わえる。これ制服着たいって即決したのマホーシャだろ……文句ぶちぶち言いながら袖がべろべろのカチューシャなんなんだお前……そしてダージリン……「みんな着てみたかったんだって」じゃないよ……誰よりもそれを楽しみにしてたの貴女でしょう絶対に。ねえ。ダー様。
 
さて、カール自走砲である。
何がおっかないって凄まじい爆発の振動に加えて爆風もやってくるのだ。観客席に。爆音上映が音なら4dxは風と振動でカール自走砲の恐ろしさを表現してきたのだ。ああ、あんなの勝てっこない。
 
雨だ。
雨が降ってきた。
カチューシャを生かすために、クラーラが、KV-2が、ノンナが、プラウダの面々が散っていく。悲壮感三倍増し。でも皆戦車の中では?思ったら家元こと西住シホーシャがずぶ濡れであった。ああ、この雨は家元も浴びた雨だったのだ……
 
その恐ろしいカール自走砲を倒すために、どんぐり小隊が結成された。ここのドゥーチェほんとかわいい。こ゛っ゛ち゛み゛て゛る゛ぞ゛。
 
継続ちゃんだ。
継続ちゃんである。
ミカがカンテレを弾けば、ミッコが踵を鳴らす。
カッ。
カッ。
 
その時、確かに4dx殿も鳴らしたのだ。観客の、我々の太腿を通じて。あの時、劇場の誰もが踵を鳴らしたのだ。
 
例えば撃たれて吹き飛んだとしても、簡単に彼女たちはくたばらない。天下のクリスティー式を舐めるなよ。車輪が周り……彼女たちは"弾け"た。パパパパンと破裂音がし、脹脛の辺りに何かが当たったような感触がする。これはBT-42が、継続高校の彼女たちが弾けた何かだ。そう4dx殿が伝えようとしている。受け止めねば。見届けねば。彼女たちの奮闘を。
 
大学センバツ戦もここまで語れば、もう恐らく充分だと思う。大洗市街地戦だって海岸のナポリターンやKV-2のアホ火力等、文章じゃ語り尽くせない。観覧車さんのカンちゃんドラムも、タンケッテonジェットコースターも、あひる小隊が天才少女にぼこぼこにされる時も、アリクイさんチームが筋肉で撃破する時も、そのどれもが4dx殿によって最高の体験となっていた。
 
西住vs島田の最終決戦はバルト9よりも、立川シネマシティよりも手に汗を握った。もはや私たちは観客ではない。チームだ。大洗女子と、我々と、4dx殿。我々はあの時、間違いなく戦友だったのだ。
 
「戦車道には人生に大切なすべてのことが詰まってるんだね」
 
「……だろう?」
 
 
幾度となく聞いたエンディングテーマ、『piece of youth』が流れ出す。見上げた夕焼け空には、沢山のシャボン玉が浮かんでいた。大洗女子の勝利を。彼女たちの未来を祝福するように。
 
 
 
 
4dxは、動く。僕らの心ごと、動かす。
 
 
 
まだ4dxで観ていないなら、迷わず4dxで。
まだガルパン劇場版を観ていないなら、出来れば普通に一度見てから4dxで観ることを薦める。
というのも、煙演出(やや後方から見る限りではうまく拡散せず左右からもわっとして場面の切り替えについていけていないように見えた)や、フラッシュ演出(暗闇で散る火花が格好いいのに劇場内すべてをパカパカと照らすためアトラクション側に針を振り切ってしまう)が、映像作品としてガルパンを見るときに邪魔になってしまうのである。
 
それは置いとくにしても、風や雨に振動や、時には背中をボッコボコにするような体験は正に4dxと名乗るに相応しい感動を与えてくれた。
 
もし4dxを見た直後に「ガルパンはいいぞ」「動いていた」しか言えなくなった人を見かけても、そっとして上げてほしい。
 
その人の心は、きっとまだ大洗にあるからだ。