ファークライ3、5年目の再プレイ感想。エスパー馬鹿AIと噛み合わないシステムとメタ語り。

 

  気づいたらPC版に日本語が追加されていたので、発売年に一周サラっとやっただけの物を改めてプレイしなおしました。 

 

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  ここらへんの「過去作ぶっ通しで遊ぶ」のと同じノリです。

 

 ファークライ3は東南アジアで麻薬・人身売買シンジケートに支配された島についうっかり入り込んでしまった主人公、ジェイソン・ブロディ君が拐われた仲間を助けに行く過程でタトゥーまみれの現地レジスタンスと一緒にシンジケートをぶっ潰す話です。

 広大なオープンワールドを舞台に島の各地にあるシンジケートの基地をぶっ潰して開放し、装備は島の動物たちを狩猟してクラフトして強化。経験値の概念があり成長してスキルを獲得するRPG要素もあります。

 という紹介はもう死ぬほど溢れているので、いつもの記事にします。

 

報酬の欠如、報酬の偏り。

 このゲームはステルス要素があります。そしてステルスで倒すと敵の経験値が10倍に増えます。

 はい。10倍です。スーパーマーケットやドラッグストアのポイントカードかよ。1回のレベルアップに必要な経験値2000に対し敵一人倒して10。もうこの時点でアサルト(撃ち合い)は明確にゲーム側から罰せられていると言っても過言ではありません。

 基地の開放も同じ。アサルトで開放して500しか貰えないのに誰にも見つからずに敵を倒しければ1500貰える。撃ち合いは弾薬費がかかる上に成長もしない。オープンワールドですからフリーラン(非ミッション時)にも敵と出会いますがそんなのを相手しても、文字通り「身にならない」わけです。

 これは遭遇する野生動物も同じ。クラフト要素と上で書きましたが、要するに動物の皮を2枚なり3枚なり剥いで装備を作った後は鬱陶しいMobでしかなくなるわけです。皮に高値がつけばまだ相手する気にもなりますが、ロケットランチャーの弾1発100ドル分にも見合わないのだから仕方ありません。

 更に言うと敵の死体を漁っても宝箱を開けても、その報酬の無さは同様です。20ドルとか30ドルをどう積み重ねても3000ドルも4000ドルもする武器代には届きません。

 が、その武器も妙なもので、電波塔(アサシンクリードでのビューポイントに相当)を開放するとタダで貰えます。ただしアタッチメントは有料。つまりこのお金は言ってしまえば「弾薬」と「アタッチメント」にしか使いみちがそもそも存在しないのです。

 

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  お金にほぼ使いみちが無いが、そのお金すらロクに貰えない。そして敵を倒す事も動物を倒すことにも価値をゲーム内で持たせられなかった。ここら辺、アサシンクリード3と全く同じ間違いなんですね。

  

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  そしてそれはGTA5でも同じ。からっぽでハッタリのオープンワールドという点が共通しています。

エスパー馬鹿AI vs サイレンサー対物ライフル

 さて、ステルスの話に移りましょう。このゲームのステルスは「敵に姿を視認されなければいい」です。なのでグレネードを投げつけようがC4で施設を大爆発させようが、RPG-7で数人吹き飛ばそうが、ステルスです。人死にが出ても警報は鳴らしません。

 しかし敵も馬鹿ではありません。このゲームの敵は300m先から減音器を付けたスナイパーライフルで狙撃しようが確実に射撃地点に走ってきます。どんなに遠くてもルートが繋がっているなら走ってきます。背後から火炎瓶を投げて燃やしても投擲した地点に走ってきます。エスパーです。しかし警報は鳴らしません。

 一回見つかればアサルトであっさり殺されますが、ステルスならガバガバ。しかし敵の勘だけは異常に鋭く、一度見つければ300m先だろうが確実に撃ち抜いてくるエスパー馬鹿AI。彼らに対するこのゲームの最適解はこうです。

  • すぐに隠れられる離れた高台、かつ敵のAIがルートを探せないような位置から
  • 減音器付きの狙撃銃やRPG-7グレネードランチャーを用い
  • 一方的に皆殺しにする

以上です。基地に潜入してエスパーAIが瞬時に発見してくるようなリスクを侵すより、アウトレンジからちびちび削って兵を倒し切るほうが圧倒的に簡単であり、手短です。

 これに拍車をかけるのが対物ライフルの存在です。先に紹介した通り電波塔で武器が無料になるわけですが、全ての電波塔を開放すると対物ライフルが手に入ります。これは最終スキルを獲得しないと倒すこともままならないヘビーアーマー(CoDのジャガノートみたいなもんです)も即死させることが可能。そも最終スキルが無いと近づいて爆発物でやっつけなければならなくなるヘビーアーマーの存在がステルスと相反しているわけですが、それを対物ライフルがその上から潰します。即死です。

 なのでこのゲームはジャングルがどうこう、潜入してルートがどうこうではありません。遠くから撃ち殺して終了です。これが面白いかどうかは人それぞれですが、私は「今回はどこに陣取るかな」と考えるのは少し面白かったです。エスパー馬鹿AIとの撃ち合いや潜入ステルスは微塵も面白くないですが。

 

基地なき世界に価値なし

 その基地ですが、ゲーム内に40も無く、全て潰し終わるとフリーランの状態でほぼ敵兵は出てこなくなり、ストーリーの展開にそぐわない平和な島となります。しかしここで出てくるのが先程の「基地開放による経験値」であり、何をどう倒そうがクエスト報酬の経験値が圧倒的である時点で「成長する手段が無くなる」にも等しいのです。

 しかし基地はファストトラベル(ワープ機能、ドラクエのルーラの事)の移動先に指定出来るだけあって、電波塔を開放しある程度武器を手に入れマガジン拡張用のポーチを動物狩りで手に入れたら次は移動を快適にするための基地つぶしになるのは当然。

 一応、非常に小規模な戦闘(だいたい4人倒したら終わり)のサブクエストや荷物運びのクエストの数だけはありますが、それで得られる経験値はヘビーアーマーを正面から倒した時の更に半分程度であるため、本当に微々たるものと言えるでしょう。

 つまり、世界にも、自分にも訪れる変化はあっという間に終わります。このオープンワールドには価値がなくなってしまうのです。景色もずっとただのジャングル。収集アイテムで物凄く強い武器が買えるようになろうが、それを振るう相手は既にいません。プレイヤーが倒してしまいましたから。そして、武器を手に入れようがサイレンサー対物ライフルや弓が最強なので使い道もないのです。

 とは言え、そのサイレンサー対物ライフルを買うにはゲームを中盤まで進める必要があります。そこまでは変化が保証されている、という言い方も出来るでしょうか。

 

物語までエスパーとガンギマリに支配されていく。

 あくまで現代を舞台にし、魔法だの何だのというのがない作品で「あ!タトゥーの女に変なもの飲まされて見た幻覚で出会ったことのある男!お前幻覚の中で出会ったことのある男じゃん!」だのと言い出して「は?」ってならない人がいるでしょうか。

ファークライ3はこうやってCIAのエージェントを見つけます。嘘だろ。

 そんな感じで、麻薬シンジケートを切り崩していく話かと思いきや現地のタトゥー教の話がちょいちょい邪魔してきますし、かと思えば友人を拐ってレイプしている壮年の殺し屋から命じられ旧日本軍の潜水艦ドックや大昔の中国人が作った地下遺跡の探検をやらされたりします。

 あ、この壮年の殺し屋は男性ですし、拐われてレイプされてるのも男性です。

 その壮年の殺し屋もクエストの出口にワープして待ち構えていますし、それで手に入れさせられるナイフもそんなにメインストーリーには絡んできません。かなりとっちらかった印象を受けます。 

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 とっちらかった、と言えば本来バラバラで進行も自由な形にするはずだった物を無理やり一本のメインストーリーにした結果、話のつながりがグチャグチャになってしまったバイオショックインフィニット、アレに近いものを感じました。

 兄貴の仇であるバースの屋敷に乗り込むところで部屋中のモニターがバースの顔になる演出は非常に良かったのですが、バースとの決着は幻覚の中でつきますし、何よりそのバースの死体を見ることなくなあなあで次の場面に進む。確かにRPG的なスキルの説明にはなってこそいるものの、タトゥー教団の美人の教祖とヤったら更に使えるスキルが増える。そのヤるイベントもメインストーリー内で幻覚を見ながらの展開。

 プレイヤーに人間はここまでなれるのかという狂気を突きつけたいのか、それとも「フォトリアリスティックな絵は飽きたよね!じゃあ面白い絵をみせてあげる!」という話なのかがよくわからないまま、兄貴の仇であり最後の生き残りである弟を捉えているシンジケートの親玉との対決に話は移っていきます。

 いままでのメインストーリー中でも戦いに順応し、あくまで一般人を貫く「仲間たち」に一端の戦士としてテキパキと指示を出したり敵を殺す事にヒャッハーしていく主人公と、それをかなり引いた目でみている「仲間たち」の対比をする事はあったのですが、主人公の吹っ切れっぷりを象徴するのが「実の弟に尋問をするシーン」です。

 敵の組織に入り込むために、やっと再会した弟を殴り銃創を指で抉る…というのをプレイヤー自身にQTEでやらせるのは非常に良かった。しかしその敵の親玉との対決は、ポーカー勝負で指を切られた後に幻覚の中でついてしまうのです。

 幻覚イベント後、その場にいた全員を皆殺しにした事に気付く、という形で。

 弟とヘリで脱出するイベントでは大音量でワルキューレの騎行がかかり、やれやれと機銃で敵を一掃すると仲間がタトゥー教団に何故か捕まっているではありませんか。と、ここでまたタトゥー教祖によって幻覚を見せられます。

 

 あまりにも下手くそな「メタ」のお話

 ファークライ3はメインストーリーを進めるたびに「不思議の国のアリス」の一節が表示されます。不思議の国のアリスは「異なる文明・異なる文化に主人公が触れ、様々な人達に出会っていくお話」であり、そして何よりクライマックスでいわゆる「夢オチ」になってしまう話。続きの「鏡の国のアリス」はあべこべの世界で「いつのまにやら王になっていた自分が、起きてしまった馬鹿騒ぎを止めるために赤の王をとっちめようとしたところで目覚め、夢をみたのは自分なのか赤の女王なのか。自分こそ夢に見られてしまった存在なのか」と物語に問われて終わる話です。

 その構造を持ち込んでファークライ3が語ったのは「現実サイド・仲間たち」「不思議の国サイド・タトゥー教団たち」というもの。現実ではパッとしない主人公が南の島でタトゥーと武器で大暴れ。しかしそれに仲間たちはドン引き。主人公は南の島で「やるべき事」を見つけ熱中し更に人殺しを続け、タトゥー教団でも地位を獲得する。

 物語の最終節でファークライ3が迫るのは「仲間たちを皆殺しにして島に残るか」「タトゥー教団を後にし現実に戻るか」という二択です。しかし、その語り方が直接的過ぎる上に、下手くそだと思います。

 そもそも暴力の支配する国で暴力に飲まれるという話でなく、「今が一番生きてる感じがする!」という充実感が主人公が語る主な話であり、行動理由も「仲間を取り戻す」「兄貴と弟の仇」という復讐譚だったはずです。まあ弟生きてるんですけど。あくまでタトゥー教団は主人公がつぶやく通り「なんか面倒くさいけど力を借りる」程度の存在であり、別に主軸にはいませんでした。

 その物語の最終節で見せる幻覚は「お前はナイフで人を殺したんだ。何をタトゥーなんか入れて。馬鹿じゃないの。私がタトゥーなんて消してあげるわ。あなたは空想の世界に浸っているだけ。」という仲間たちの声と、「この島も私(美人教祖)も全部手に入るわよ。人々が跪くわよ」というタトゥー教団の声です。

 

 現実サイドである仲間たちの声は

  • ゲームで人殺しなんかして
  • ゲーム世界で着飾りなんかして
  • ゲームで英雄扱いされてさぞいい気分でしょう
  • ゲームなんて空想でしかないのに

 という事を、唐突かつ非常に直接的に言ってきます。もともと主人公も旅行に行きまくりレジャーしまくりの金持ちのボンボンなわけで、そんな男がワーっと戦って祀り上げられる話をみせておいて、これです。

 これ以前にもバースという中ボスが「異常の定義を知ってるか?違う結果が出ることを期待して同じことを繰り返すことだ。でも俺は気づいたんだよ。どこを見ても馬鹿どもが同じことを何度も何度も何度も何度もやってやがる。異常なのは世界のほうだろ」という事を言っているわけで、こっち路線で行くかと思ったら面食らう話でもあります。

 

 仲間たちを救えば「大丈夫…日常に戻れる…怒りと力に支配はされれてない…はず…」みたいな事を主人公が呟いて島を脱出エンドです。さよならゲーム世界。

 では現実を切り捨て、仲間たちを皆殺しにし、タトゥー教団のトップの座を選んだ場合はどうなるでしょう。これはYoutubeで幾らでも見られるので見ていただきたいのですが、仲間たちを殺した後に暗転を挟んで美人教祖とのセックスのシーンが入ります。果てて仰向けになる主人公に美人教祖はナイフを突き立て、「究極の戦士を孕んだからお前は死んでください」というような事を言ってきます。はい、デッドエンド。砂浜に刺さるナイフを映しながらスタッフロール。

 非現実での肉欲に溺れる主人公は、現実に帰らずゲームの享楽に耽るプレイヤーの事です。もっと大きく言えばフィクションを読み耽る人々とも言えるでしょう。そんな人々は「次」の糧として消費され、必要が無くなれば消されてしまう、とも読み取れます。現実を捨てたからと言って空想に居場所があるとは限らない。そんなデッドエンドです。

 

 全くスッキリしない話ですが、先の「不思議の国のアリス」はフッと醒める夢の話。「鏡の国のアリス」はアリスも巨大なチェス盤の中のひとりの齣であり、自由意志に基づいてやっていた筈が実は誰かの思惑どおりに動いているという話の作りをしています。

 

 

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 これはバイオショックでも描かれたことですが、自由意志に基づいて進んでいるはずが「やらされていた」ことであるし、Spec Ops: The Lineでは自分の意志で引いた引き金が多大な被害を及ぼし、もうラスボスを倒してどうにかするしかないとエレベーターに乗り込んだところで「まだ英雄気取りか?ともうひとりの自分が問いかけてくる描写がありました。

 前にも後にも優れた語り方をする作品がある以上、やりたい事はわかるがやり方が下手くそだぞファークライ3。そう言わざるを得ません。

 この「プレイヤーそのものの話をする」という話をすると、どうしてもUndertaleにも言及しなければなりませんが、個人的にはUndertaleのGルートのラストも同じものを感じます。というのも「システムが許してるからやることをやってみてる」「それにSansも気付いている」という所までは良いとして、最後にはCharaが「あなた」、つまり「プレイヤー」がおかしいと直接的に語りかけてくるのです。

 私はこういうメタな話をするなら、あくまで登場人物間で片付けておいてほしいですし、直接プレイヤーに説教しないで欲しいと思っています。「ロール」を「プレイ」しているのであって、場を用意したのは制作なわけですし、なによりカメラに突然向き直すのは反則だと思うのです。

 

 

鏡の国のアリス (岩波少年文庫)

鏡の国のアリス (岩波少年文庫)

 

  ところで、「鏡の国のアリス」は『たしかに、ため息のなごりのようなものがお話をそっと震わせていくこともあるかもしれない。だって 「あのしあわせな夏の日々」は遠くすぎさり真夏のかがやきは消え失せてしまったのだから。でもそれがこのひとときの心楽しいおとぎ話に悲しみの息を吹きかけることだけは断じてさせはしない』(岩波少年文庫 訳 脇明子)という詩に始まり、『あなたはどちらだと思う?』(夢を見たのか、夢に見られたのか)という胡蝶の夢のような問を投げかけて終わるわけですが、「おとぎ話や夢」という話をするにしても引用するにはファークライ3には不適当な気がするんですが、どうでしょうかね?

 

ファークライ3、15時間と6500文字の旅となりました。
次遊ぶとしたらファークライの5ですが、それはまあ、安くなった時に。