ランダムとの戦い。「願い込めた一撃が爆ぜない」から、トルネコもシレンも矢を射った。

 

//翻訳記事:ランダム性 | スパ帝国
http://spa-game.com/?p=440

//「無作為はともだち」読み物|マジック:ザ・ギャザリング
http://archive.mtg-jp.com/reading/translated/002238/

「ランダム性」というのはゲームにおいて素晴らしいスパイスであるとともに、ゲームを台無しにする悪魔にもなりうる力です。上で挙げた2の記事は、ゲームデザインを考えるうえでランダム性とどう付き合っていくかの偉大なコラムなので、私の記事を読む前に、というより私の記事なんぞを読むよりも先に全部読むべきです。

さて、昨今の「艦これ運ゲー論」について、一つ思う所がありました。それは「あのゲームだって運ゲーだ」「あのゲームだって確率が絡むじゃないか」と、艦これ擁護の際に流れ弾を受けた数々のゲームが本当に「運に支配されたしょうもないゲーム」だったのかという話です。

「確率が絡むか否か」だけで艦これと同類かは各々の判断に任せてもらうとして、どう違うのかについて、「確率」といくつかのゲームの中でどう付き合ったかというプレイヤー側の観点で書いてみようと思います。

 


TCGはデッキ構築とプレイングの2面でランダムと戦う

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TCGと言っても、私が最近もっとも深く遊んだタイトルは「遊戯王」ですので、ここ数年ロクに触っていないマジックやそも触っていないブシロード製のアレコレで通じない話があるかもしれないので先に断わっておきます。

アニメではないので、TCGの実際のプレイにシャイニングドローは存在しません。最強デュエリストのデュエルは全て必然とは行きませんし、カードの創造なんてのは無理です。よって、デッキの構築が重要となります。ルールでは構築に使うカードは40枚以上、となっていますが40枚きっちりで組むのがセオリーとされています。多くとも41~44枚、と言った所。
(海外では60枚デッキなどが平気で出てきますが、とりあえずここでは置いておきましょう)

デッキ構築の際に重視されるのは「多彩な戦い方が出来る」より「どんな所からでも確実にコンボがつながるように」デッキを構築し、そして実際でのプレイではドローだけでなく、サーチだとかリクルート(どちらもデッキ内から直接カードを操作する手段)だとかを用いて、コンボを決め、確実に場を支配できるように。楽しくデュエルが出来るように、ランダムと戦います。

デッキに入れるカード増やせば増やすほど取れる戦術のバリエーションも増えるので有利に思えるかもしれません。が、カードゲームは複数のカードを組み合わせて遊ぶゲームですから「コンボ」が出来なきゃ「パーツ」がバラバラに手元に来ても意味が無い。「多彩な戦い方が出来る」という事を追いかけようとすればするほど、平たく言えば器用貧乏なデッキに仕上がってしまいます。初手のドローでそのパーツがバラバラに揃ってしまう事は「事故」と呼ばれ、悪戯にカード総数を増やすとその事故率が高まる事になります。

事前にデッキを「繋がるよう」に組んだからと言って、勝敗はそこで決まりません。勝敗を決めるのは手札をどう使えるか。どう「繋げる」かはプレイヤーの腕次第。カードは手札に加えた端から使わなければならないという決まりはそこには無く、使うタイミングは完全にプレイヤーにゆだねられています。運が絡むからこそ、プレイングが重要となるのです。

完全に無くなるわけではなく、依然ゲームの核として存在はし続けるものの、ゲームに於ける運の要素は終盤になればなるほど薄まっていきます。「確実にカードを呼び寄せる手段」「確実に相手の動きを止める手段」が豊富にあり、それを組み合わせて遊ぶ以上、運以上にカードの発動タイミングが勝敗に影響します。つまり「相手との心理戦」が勝敗を分けるのです。

「ドローをするにしても、出来るだけコンボが出来るように」「何よりドローに左右されないように」デッキは構築され、プレイングは成されていくものと考えても、あまり間違いでは無いと思います。現実にシャイニングドローはありませんから。


サイコロを振る、振られる、とりあげる。そして、振らない。

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「ミス!」と表示されたときはこちらが”外し”、「ひらりと身をかわした!」となれば相手が”避けた”。コンピュータゲームに於いて、命中と回避はいつだってプレイヤーを悩ませてきました。相手からの攻撃を受けるとHPが減少し、その回復の手間が生じる。もっと言えば戦闘不能に陥る可能性が高まる。敵は手っ取り早く倒すに限るし、そのためには確実に攻撃を命中させる必要があります。

幾ら強力な攻撃や強力な味方でも、当たらなければ意味がありません。よって命中率が高い攻撃や必中の攻撃と言うのは重宝されます。「かたにちからバット」だとか、「せいけんづき」だとかは、外れる事を考えると信頼性に欠けるのです。他にちゃんと当てられる選択肢があるのなら尚更です。

極端な事を言えば、「相手が行動する」という事自体が「敵にサイコロを振られる」という事です。ですから、「相手の行動を阻害する」要素があるのなら、より安定性が高まります。「スロウ」をかけて行動を遅らせるのも有効ですし、「子守唄」で寝かせて行動不能状態にするのもいいでしょう。「マホトーン」で魔法を封じてしまうのも強力。とは言え、このような「状態異常」が効きすぎるとゲームが簡単になってしまうので、当然耐性というものが設定されます。

そしてバフ、デバフです。ステータスの強化や弱体化、そして確率そのものへの介入の事を言います。「必中」がこちらの命中率を100%に、「閃き」が相手の命中率を0%にするのは非常に強力なバフです。サイコロを振る必要が無い。そのような判定にかけることなく100と0です。味方に「スクカジャ」をかけて命中・回避をアップし、敵に「スクンダ」をかけて命中・回避をダウンさせれば、状況はかなり有利になります。

こちらはサイコロを振らなくて良くなったのに、敵はサイコロを振らなければならない。抽選するまでも無く攻撃が当たる側と、攻撃が当たるかどうかを抽選にかけなければならない側、どちらの方が強いかは一目瞭然でしょう。結果的に見て、敵の時間当たりダメージは減少することになります。ミスが生じるというのは、それだけで弱いのです。

コンピュータゲームの戦闘にも、確率は絡みます。絡みますが、むしろどう「確率を無視」し、そして「確率の絡む状況を押し付けるか」が焦点となります。極端な事を言えば、「自分の攻撃は無限にクリティカルヒット」し、「敵の攻撃は無限にミスし続ける」なんて冒険もあり得るでしょう。それは万に一つどころか億や兆に一つにしかあり得ない。だからこそ運ゲーなどでは無く、戦略を練って勇者も光の戦士も戦ってきたのです。

 

……なお、一部のターン制コマンドバトル対戦ゲームの、これまた一部の派閥には、敢えてロマンを追いかけ「外れる事もある大技」を積極的に用いる人々が居るのもまた事実ですなwwwwwwwww命中率は信仰によって得られる必然力でカバーする以外ありえないwwwwwww


不思議のダンジョン」の中でたったひとつ揺るがないもの

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歩く場所から落ちているアイテムに至るまでありとあらゆるものがランダム生成のローグライクだが、だからと言って「確率が全てを支配しているか」と言われると少しだけ違うように思えます。ローグライクとは言うものの、今回の実際の例えに使うのはチュンソフト(現 スパイクチュンソフト)の「不思議のダンジョン」シリーズなのはご容赦ください。

ローグライクTCG、似ている部分はあります。それは「立ち上げ」の部分こそ多大に運が絡むものの、「流れ」に乗りさえすればあとはゲームが進めば進むほどプレイヤー側の判断そのものが運よりもよっぽど成否に関わるようになってくるという事です。杖、指輪、巻物、草、札などなど、「ランダム」で拾えはするものの、どれも「確実」に発動するものばかりです。

そしてローグライクで最も信頼できない事、それは「通常攻撃」です。通常攻撃には確率が絡み、強力とは言えミスがあります。先手を取るのは難しくないのですが、ミスは相手の行動を許してしまいますし、それが2度3度と続けばそれだけでゲームオーバーが近づきます。「ちからの種」を飲み「天の恵みの巻物」を読んで幾ら強化したマンジカブラでも、外れる時は外れてしまうのです。故に、それを確実の物とする「必中の剣」は作中でトップレベルに合成の重要度の高いアイテムとなっています。

どれも「確実」に発生するという事は、ランダムだらけのゲームだからこそ全てが切り札に成り得ます。そして切り札だからこそとっておきたくなるというもの。「それを使わなくても切り抜けられる場面」ならば、使わずに温存するに越したことはありません。ここで面白い逆転が発生します。プレイヤーは「確実」が強力だからこそ温存し、「不確実」なものから使うようになるのです。

「不確実」だったとしても、しないよりは相手のHPを削り、そしてより「確実」に一撃で敵を葬り去るためのアイテム。その名を「矢」と言います。


「願い込めた一撃が爆ぜない」から、トルネコシレンも矢を射った

確率の絡むゲームであっても、手段が豊富であり、また発動タイミングが完全にこちらに任され、リソースを費やしたとしても確実に発動するのであればあるほど、それは「運ゲー」とは程遠いゲームになっていきます。そして何より、「確率頼りになってしまうような状況」に至ってしまう事態というのは、それだけ追い詰められている事をこの手のゲームでは意味しています。

「次に何とかドロー出来れば勝てる」という事は
「次にドローしなければ負ける」であり。

「この攻撃が当たってくれれば打開できる」という事は
「この攻撃が外れるともう後が無い」であり。

「次にアイテムを拾えればまだ冒険が続けられる」という事は
「次にアイテムが無かった場合冒険が終わる」という事です。

どれも共通しているのは、「そもそもそんな事態に直面しないよう、プレイヤーは最大限努力する」というシンプルな事実です。

決して、抽選だけのゲームでは無いと思います。

例えばオンライン協力・対戦ゲームのメンバー集めだってそうです。「自分のパーティに下手な奴に来られたら負けが近づく」とか「自分のパーティにシステムを理解している人間が来ないと困る」という状況を回避するために、プレイヤーたちはギルドを結成したり、ゲーム内外で募集をかけます。「仲間になるのが誰かもわからない」「試合毎にコンピュータのマッチングシステムにどう振り分けられるかの運頼みは避けたい」という、これもまた抽選から逃れるためのプレイヤー側の涙ぐましい努力と言えるでしょう。

確率が絡むからこそ、ゲームはドラマティックになります。全てが予定調和では驚きなど生まれません。確率とはゲームに於けるスパイスであり、プレイヤーがどうにもできない要素です。シャイニングドローも、クリティカルヒットも、たった一つのおにぎりも、予期せぬ頼れる味方の登場も。……そして、嫁艦のカットイン攻撃も。

だからこそ、その確率を「どう潰すか」「抽選自体を回避するか」それ自体がゲームのキモとなる事もあります。スパイスはあくまでスパイスでなくてはなりません。「当たりが出るのを待つだけのゲーム」に、プレイヤーは介在する必要が何ら無くなるからです。ハッキリ言えば、プレイヤーが遊ぶ必要が無くなってしまうのです。

しかも艦これの場合、よりにもよってサイコロの性能やシナジー、それどころか判定ルールそのものが公開されていない為、「潰せているのか」すらわかりません。それゆえ、すべての行動の信頼性は「おまじない」レベルまで低下します。唯一のバフである「キラ付け」ですら定かではありません。「おまじない」×「おみくじ」……これが艦これが「運ゲー」と呼ばれたことの正体だと言えるでしょう。

疑似乱数という無慈悲な神の前に、「願いを込めた一撃」が爆ぜるとは限りません。だから、トルネコシレンも矢を射ったのです。それは正に、神を殺すための一手だと言えるでしょう。

 


余談。もしくは本題。
運ゲー」の言葉の意味のブレかたと「ハクスラ」の是非

運ゲー」という言葉がマジックワードと化して久しく、また「当選確率を上げられるから運ゲーじゃないんだ」「それでも抽選を待つだけのゲームだから運ゲーなんだ」と同じところを見ているのに見ている角度が違う為殺し合いが発生しました。

実はこれにもう一つ、特に「最近熱心にゲームをやっているわけでは無い人」の使う「運ゲー」の用法があります。それは「どんなに勝っていても、運次第で負ける事のあるゲーム」という意味での「運ゲー」です。

艦これがゼロから当選確率を…まあ多めに見積もって3割ぐらいまで上昇させるゲームだという前提の知識があればこれは出ないのですが、こういう意味でも殴りかかってくる人が居たのが昨今の艦これ周りのしょうもない殴り合いを更に加速していた感は否めません。

主にこれはちょっとパーティ寄りの対戦ゲームでのランダムおじゃまアイテムのような気持ちでランダム要素そのものに首を突っ込むと発生しやすい齟齬だと言えます。まさか「基本的に無駄にし続けられて、あたりが極稀に引けるのを眺めるゲーム」なんてものが実在するとは思っていないでしょうから…

 

また「レアドロップアイテムを求めてひたすら戦い続けるゲーム」ことハックアンドスラッシュとの類似点が指摘されましたが、実際の所それは半分当たっています。現在の艦これは代替可能な装備、つまりフレーバーしか見どころの無いユニットを景品にひたすら出撃をさせる出来損ないのハクスラだとも言う事が出来るからです。

ではそのハクスラと艦これの最大の違いは何か。それは「レアドロップアイテムの抽選を確実に行う事が出来る」事です。もっと噛み砕いて言うと、「モンスターやボスをプレイヤー側の努力で100%確実に殺す事が出来る」という事です。艦これは道中事故及びボスマスでの戦闘の事故により、全ての出撃でSランククリアすることは不可能となっています。重ね重ね言いますが、これはプレイヤー側に何の落ち度が無くてもそうなってしまいます。

「お目当てのアイテム入手のために実際の戦闘中に部位破壊など工夫をする余地がある」「高速で敵を討伐するためにタイムアタック化する」というのは、確実に倒せるからやれる事。だからプレイヤーにもモチベーションが生まれるのです。よりうまく、じょうずに、絶対に倒してやろう…と。

アンガ・ファンダージを500体倒しても物が出ないのがハクスラです。しかし、それはアンガ・ファンタージを絶対に殺せるからまだ許されるのであって、それが逃げるだとか、プレイヤーに何の落ち度も無しに討伐失敗してその機会自体が無駄にされることがあるようでは「頑張り甲斐」が無いのです。

 

という事を考えると、最もマゾいゲームってランダムエンカウントでモンスターをテイムしたりゲットしたりする、アレなのかもしれませんね……どなたか、考察していただけるとありがたいです。読みたいので。個人的な事を言わせて貰えば、「厳選」も「はぐれメタルを仲間にする」のも、同じぐらいの地獄なんじゃないかなあと思っているのですが。