お前はアウターワールドでハルシオンに夢を見て、そして現実に打ちのめされろ。

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【PS4】アウター・ワールド

【PS4】アウター・ワールド

 

 Obsidian Entertainmentと聞いてもどこのメーカーか分からないだろうが、「あのFallout:New Vegasのチームの新作だよ」と聞いてビクっとしない人は居ないだろう。NV後に4や76で「もう本家に期待するのも違うかも知れない」と思った人ならなおさらだ。

 The Outer Worlds(邦題:アウターワールド)は18年末に突如発表され、そして19年のホリデーシーズンにリリースされたObsidianの新作オープンワールドRPGである。

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 ハルシオン星系への移民船「ホープに乗り込んだ主人公は10年後に目覚める事を夢見て冷凍睡眠につく。が、突然フィニアス博士を名乗るジジイに叩き起こされて見れば80年の時が過ぎており、しかも他の人は誰一人起きていない。良くわからんままジジイに導かれハルシオン星系の首都惑星にポッドで落とされて、これから俺どうなっちゃうの~!?

 あ、現地で手助けしてくれるはずのガイドさんはポッドの下敷きに。
 本当に俺、これからどうなっちゃうんだろう…

というのがアウターワールドの始まり。

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 ん?知らんジジイに導かれるまま…ポッドで…?

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 冷凍睡眠から目覚めたら一人で…?

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 知らん惑星で野生生物やわんぱくなお友達と戯れる…?

 

 

 

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 アウターワールドを始めたプレイヤーは、まるでRaptureに導かれた時のワクワクと、Vaultから出た時の僅かな不安と、そしてPandoraでの戦いの日々のような胸騒ぎにかられるだろう。事実、アウターワールドは00年代のHD機でプレイしたあの頃の要素で出来ている。あの頃よりもっと画作りはサイケで、まるでReShadeか何かを入れ間違えたようなギトギトでビカビカだけれども。

 

ハルシオン星系に見た夢

 ハルシオン星系に降り立ったプレイヤーが感じるのは、自由度と冒険の予感だ。

  • ビーコンが中央の街を示しているが、無限にロケーションがありそう!
  • 武器や防具にレベルとか属性がある!ハクスラなのかな?
  • 何やら色んなアイテムが手に入るぞ?もしかしてクラフトとか改造要素ある
  • 開けられないドアや箱が一杯だ!きっと後から来たら凄いに違いない…!
  • パソコンでメモやメールが読める!色んな場所にドラマがありそう!

 事実、最初のエリアであるエメラルドヴェールを1時間ほど歩き回っている時はそんな感じで楽しい。どの場所に行っても山程クエストが発生するし、今起きてるトラブルの対応のバリエーションが非常に豊かだ。「ああ」「そうだ」「うん」と返すだけじゃない、主人公の発言にニコニコ出来るRPGが帰ってきた。

 が、エメラルドヴェールのメインクエストで自分の船に必要な部品を手に入れた辺りで少しずつ、少しずつだがゲームの底が見えてくる。

  • ビーコンが中央の街を示しているが、無限にロケーションがありそう!
    Falloutの大型DLCで追加されるマップ程度の広さのエリアが複数あるだけ。クエストで訪れる場所でも無い限り、NVの道端の小屋程度の意味合いしか無い。

  • 武器や防具にレベルとか属性がある!ハクスラなのかな?
    →ではない。武器や防具のレベルは入手するお金を使うための焼却炉。ユニーク武器はユニークであって強力な訳でもない。何よりこのゲームの最強火器のひとつは中盤にザコ敵から拾えるマシンガンである。

  • 何やら色んなアイテムが手に入るぞ?もしかしてクラフトとか改造要素ある?
    →あるのは拾ったMODを店売り武器に取り付けるNVめいた改造だけ。拾える様々な小物はただの売り物でしかない。食べ物も飲み物も最高難度以外ただの重しでしかない上に買取価格も安い。

  • 開けられないドアや箱が一杯だ!きっと後から来たら凄いに違いない…!
    →違う。今ハッキングやピッキング能力が無いから今消耗品を入手できなかっただけ。中身は大したこと無い。ただ、ドアだけは開けるとミニクエストが生じたりクエストの進行方向がガラっと変わることがある。

  • パソコンでメモやメールが読める!色んな場所にドラマがありそう!
    →残念な事にこのゲームはFalloutではない。

 こんな所だ。「ハルシオン星系に胸をときめかせてやってきた主人公」と「凄いゲームなんじゃなかろうかと胸をときめかせたプレイヤー」の熱の下がり方も重なる。

 そう、アウターワールドRPGだ。それもFallout3よりももっと時計の針を戻した、RPGなのである。なので環境ストーリーテリングに期待してはならない。いや、それは言いすぎだ。「この施設が放棄されていく過程」だとか「研究が狂っていく過程」だとかは書かれている。書かれているが死体は新鮮で、施設はいつもどおり凶暴な野生生物でぎっしりだ。

 しかし「ベッドの裏の金庫」「ベッドの上で寄り添い合う白骨死体」「ベビーベッドの中のテディベア」などなどを期待してはならない。ここは終戦争から200年後のウェイストランドではない。

 

ハルシオン星系」であるということ。

 タムリエルで無いと言っても良いが、ラプチャーやウェイストランドでは無いという事はどういう事かをもう少し噛み砕いて説明しよう。

 アウターワールドの舞台は「うまく行くはずだった”外界”の開拓の失敗した星系」である。2隻の移民船のうち1隻だけが到着し、そこで目覚めた人々が惑星テラ1を開拓しようとして物の見事に失敗。2つ目の惑星であるテラ2の開拓こそなんとか出来たものの、すべての人に居場所のある生涯雇用システムなんてものはロクに機能せず…という所に主人公が「2隻目の移民船から来た唯一の人間」として現れるわけだ。70年遅れで。

 つまりだ。ハルシオン星系にはそもそも歴史がない。そも地球の歴史から切り離されているので中国だアメリカだという事もない。ということは「かつてそこで生きていた人々」の話もなく、廃墟はただただ放棄された企業の建物でしかない。「かつては何かだったもの」が「今を生きる人々には別の使われ方をしている」という事もない。狂人が各々のセクターでとんでもない事を人々に施しているわけでもない。

 

 「開拓の失敗した星系で、企業連合はそこかしこでブラックな労働を強いている。しかしその企業の言い分には一理あり、とは言えそこの反旗を翻した人々の言い分にも筋が通っている。この硬直した状況で、主人公は何をするのか?

 これがアウターワールドのキモだ。アウターワールドは狂った海底都市の崩壊の物語でもなければ、最終戦争で時計の止まった荒野を旅して今の答えを見つける物語でもない。主人公はトレジャーハンターでも無いし、悪徳企業をぶっ潰すって話でもなく超能力者も出てこない。核にあるのは滅び行くハルシオン星系で懸命に生きている人々の今と、そして選択である。

 

 最初に到着した移民船の名はグラウンドブレイカー、先駆者だとか開拓者という意味だ。そして70年遅れで見つかった第二の移民船の名はホープ。何十万人という人々が目覚めを待つ船の名は、希望を意味する。

 

膨大なスクリプトに裏打ちされた、鮮やかな現実に挑め。

www.nintendo.co.jp

 

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 突然だが、バハムートラグーンというゲームをご存知だろうか。1996年にスクウェアが発売した傑作SRPGだ。このゲームは30人を超える仲間達と戦艦ファーレンハイトで空に浮かぶ島々「ラグーン」を渡り、戦っていく作品である。

 このゲームの素晴らしい所の一つが、その30人を超える仲間達全てと1ステージ毎に会話が可能である事だ。先のステージまでの話を汲んだ会話もあれば、ステージを経るごとにファーレンハイト内で仲間達がいがみ合ったり、仲良くなったり、両片思いになったり、そんな人間ドラマが展開される。私はこのファーレンハイト内の会話劇が大好きだった。

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 サモンナイトシリーズはどうだろう。これもSRPGで、仲間とチャプター毎に会話をすることが出来る。キャラクターと直に会話をすることでキャラクターにもストーリーにも深みが増すのが「夜会話」というシステムだった。

 2のハサハが好きです。

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 スターオーシャンの中でもセカンドストーリーで大きく強化されたのが「プライベートアクション」で、これは街に入る時にボタンを押すことで仲間が街中に散らばり、それはもう様々なイベントが発生するものだった。仲間同士の組み合わせでのみ見られるイベント等もあり、また「仲間同士が恋愛関係になる」というエンディングも用意されていた。

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 さて、アウターワールドに話を戻す。アウターワールドは辺境の町エメラルドヴェールの田舎娘メカニック「パールヴァティー」と、堅物だが何かを探し求める神父「マックス」を仲間にし、コロニー船「グラウンドブレイカー」に乗り込んでから一気に毛色が変わる。

 というのも、シナリオ上必須なNPCとの会話に口を挟んだり場所について会話し合ったり、「ちょっと外で話そう…さっきの事なんだけどさ」と仲間から話しかけてきたり。仲間がハチャメチャに喋りまくる。何なら仲間が話しすぎるから主人公が制止したりするぐらいだ。ソレに対しNPCも「随分とお喋りな奴を連れてるんだな?あ?」と怒りを顕にしたり、はたまた「そっちのお仲間さんは分かってるようじゃねえか」と言ってきたり。前述のゲーム達に負けず劣らずの「会話劇」を繰り広げてくれるのだ。

 更にはこの田舎娘メカニックがグラウンドブレイカーの女船長とのメールに始まりデートの約束を取り付け、石鹸を買いに行きお菓子を買いに行き更には都会に服を買いに行き、最高のデートをプロデュースする中で不安になる彼女を酒場につれていき、もうひとりの仲間(これも勿論誰を連れて行っても良い!)と初恋について語らうクエストまで用意されている。アウターワールドは百合。

 このゲームで会話をご破産にするのは簡単だ。銃を抜いて全キャラ殺してしまえばいい。仲間に一度したとしてもそのままクビにして蹴り出してしまえばいい。そういうロールプレイもありだろう。だがアウターワールドを遊ぶのであれば、お勧めしたいのは会話による「選択」を楽しむ遊び方だ。

  

 実に膨大な選択肢がある。しかし言っておきたいのは「同じ話を何度も聞き直し、全ての選択肢をその場で選び直す」という事は出来ないって事だ。発言には取り返しがつかない。後戻りできない選択肢には勿論<攻撃>だとかわかりやすいアイコンがついているが、それだけでなくクエストの途中の何気ない選択肢でニヒルな発言をしても、興味がないような発言をしても、その会話は二度と見られないのだ。

 選んだ選択肢以外の会話は見られないし、その先の旅で二度と同じ話をすることはない。銃を抜かずとも、一度放ってしまった言葉はもう戻らない。その積み重ねがサブクエストを終え、メインクエストを進めていく度に増えていく。それらはプレイヤーの中に、たしかに「主人公像」を形成していくのだ。

 

  そのロールプレイの中で出会うのも曲者揃い。結果として大災害を引き起こしたダイエット歯磨き粉作りのおじさんも、人間の死体を肥料に植物園を営むババアも、アウトローの女社長かと思えばエイリアン陰謀説を唱えだしたりとバリエーション豊かだ。街から街へ移動する度に、ネームドキャラと話すのが面白くて仕方ない。

 

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 終盤、いよいよ主人公たちは何十万という人が今も眠る「ホープ」に再度訪れる。

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 さてお待ちかね、ターミナルによる「22000日前の真実」もようやく語られることになる。ここで「あの時居た人々」の物語が明かされるのだが、それもまた絶品だ。懸命にホープを目的地に向かわせる船員の記録は、思わぬ結末を迎えるのだ。

 

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 かつて叶わなかったハルシオン星系への到達。果たしてコロニーはどんな物語の結末を迎えるのか、それは正に「プレイヤーの手にかかって」いる。

 

「話す」事で変わっていく「現実」に打ちのめされてくれ。

 アウターワールドはフレーバーとシステムで言えば、非常に淡白なシステムを圧倒的なフレーバーが覆っている。クエストも整理してみればダンジョンの奥に行ってボタンを押したり装置を拾ってきて、また次の話をするだけだ。とは言えそれからまた話が転がりだすわけで、私は飽きずに15時間の旅を楽しむことが出来た。

 惜しむらくは戦闘やシステム側があまりに淡白であった事だ。冒頭に書いたとおり、このゲームは最強武器のマシンガンをバーっと撒いているだけで終わるし、武器に属性もサクっと付けられるので武器を選ぶという事もあまりない。派閥と仲良くなれば弾薬は激安になるのであまりリソース管理という部分もない。最高難度ならいざしらず、装備の耐久度周りはただ煩雑なだけだったし、サバイバル要素を楽しまない場合飲食物は取る意味すら無かった。いつものごとく重量制についても余計だったように思える。

 戦闘が淡白なのでパークによる強化も魅力的にならない。なので事前に宣伝された「デメリットを受け入れることで強化も!」という部分も大したことにはならなかった。というかデメリットで会話や解錠が下がると、単純にイベントがやりにくくなるのもよろしくない。

 が、逆に言えばそれは難度がかなり抑えられており、万人に「会話劇」と「軽めの探索・冒険」を提供できるという事にほかならないと私は考える。まだ遊んでいないのにもしこのレビューを読んだなら、是非アウターワールドを遊んで欲しい。

 アウターワールドバイオショックよりバイオショックをしているが、ボイスログもサイコも居ないがゆえにバイオショックではない。アウターワールドボーダーランズよりボーダーランズしているが、ハクスラでも無ければバッドアスも相手にしないのでボーダーランズではない。アウターワールドはフォールアウトよりフォールアウトしているが、探索も遺跡も各種ログもそんなになく、決して「真のフォールアウト」ではない。

 貴方はアウターワールドに何の思い出を見るだろうか、是非その答えを聞かせて欲しい。

 

 

あ、一つ伝え忘れてた。

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アウターワールドにも「アンデール」要素、あります。