HOTLINE MIAMI 考察記事~狂詩曲は黄昏の中で~

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HOTLINE MIAMIの多くの謎は解明されぬままだ。きっと解明されないままの謎もあるだろうし、その方が面白いこともあるだろう。今回の記事では、私なりにHOTLINE MIAMIについて考えた事を書こうと思う。もちろんネタバレだらけなので注意してほしい。

4つの疑問

  1. 他人を傷つけるのは好きか?
  2. お前の電話にメッセージを残すのは誰だ?
  3. お前は今、どこにいる?
  4. 俺達はどうして、こうやって話せているんだ?

これは主人公であるJacket(便宜上、序盤の主人公をこう呼ぶ。メインアートの中央にもいる彼だ。)、そしてプレイヤーに鶏マスクの男=ゲームキャラクターのイメージから問いかけられる質問である。これらについて鶏マスクは「答えは言えない」、つまりゲーム側からの回答は出来ないと発言している。そして何よりも重要なのは、「お前のような人間にこそ問い続けて行かなきゃいけない」と言っている点だ。

2.についてはトゥルーエンドで明かされる。犯人は国粋主義者組織「50の祝福」だ。彼らによる、愛国者の煽動行為だ。彼らはマイアミでのロシアンマフィア排斥の為に、市民の愛国心を利用することを考えた。しかも「50の祝福」のニュースレターを定期購読するほどの愛国者ならハズレは無いと踏んだわけだ。

3.の「お前は今、どこにいる?」については、一応の答えは出ている。Jacketは殺人鬼として有能過ぎたが故に「50の祝福」でも制御が難しくなり、彼女を殺された上に自分もRichter(ハゲ頭の男)に撃たれてしまい長い昏睡状態にあった。中途半端に生かされていたのは、マイアミにおける大量殺人の責任を彼一人に押し付ける為であろう。この長い昏睡状態で、彼は自分の記憶……というか精神世界を長いこと彷徨っていたのである。なので「お前は今、どこにいる」は「警察に監視されながら、病室のベットで眠っている」が答えだ。

4.も「現実じゃないから」が答えの筈だ。死臭漂う密室で馬マスクの女性(娼婦)、鶏マスクの男性(自分)、梟マスクの男性(殺してきた人々)とJacketは対話する。マスクは単に身元を隠す為に被るのではなく、マスクを被って「何者かに成る」という意味合いもあり、彼女には心配されながら、自分には問いかけられながら、殺した相手には罵倒されながら心に折り合いをつけていくことになる。……もしかすると「思い出したくない、止めてほしいとどこかで自分が思っているから」が答えかもしれないが。

ポスターと彼女と三人のマスクについて

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ドット絵では分かりにくいが、メインアートだとマスクの奴らの正体が分かりやすい。映画監督の家から娼婦を助け出すシーン(2章)の絵だ。馬マスクは彼女と同じ服装をしているし、鶏マスクはJacketと同じジャケットを着ている。梟マスクの胸元にある赤いハンカチは右側にいるロシアンマフィアと共通のものだ。殺人がJacket一人の手でなく、何人もの手で行われていたことを示すのが左のヘルメットの男(便宜上、彼をRiderと呼ぶ。)の存在だ。Riderの殺しのスタンスはJacketと違い、必要最低限の殺ししか行わない。彼はJacketの消火斧による惨殺とこれから起きる虐殺に備えて後ずさりをしている。

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娼婦の彼女は、ロシアンマフィアとの関わりのあった映画監督に監禁されていた。腕と足に夥しい数の注射痕が確認できる。、もしかするとJacketは、こんな彼女を守るためにロシアンマフィアとの対決の道を選んだのかもしれない。(彼女はロシアンマフィアに顔が割れており、しかも幹部のお気に入り。いつ殺されるかも分からない)

ロシアンマフィアから彼女を守るために自宅に匿っていたにもかかわらず、己の暴力性から幾度も忠告を受けようが気にせず殺しを続けるJacket。彼は有能過ぎるが故に50の祝福に目をつけられ、Jacketは彼女を失うことになる。禿頭の男、ネズミマスクの男、Richterによる「覆面殺人鬼同士の殺し合い」によって。

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Richterには、彼女にもJacketにも恨みはなかった。「電話で依頼があったから殺した」だけだ。彼もJacketと同じように、言われるがまま殺しを働いていた人間だった。だから「何も言えることはなかった」のである。やっとの思いで、警察署に乗り込んで警官を皆殺しにして辿り着いたのは自分と同じ「言われるがままに殺人を続ける覆面殺人鬼」だった。というわけだ。

……殺しても何にもならないことを分かっていながら、Jacketは彼の首を締めた。満たされることなどないと言うのに。

では、1番の疑問。「何故お前は他人を傷つける?」の答えは?

 

引き金は、自分の意思で引け。


Jacketはメトロでの初めての殺人の後、殺す必要のなかったホームレスまで手にかける。その時彼は激しく嘔吐し、人間らしい一面を見せる。当たり前だろう。彼は特殊部隊の人間でもなく、暗殺者でもない。ピザを食べレンタルビデオを借りゲームで遊ぶ普通の市民だ。

その彼の行動は、徐々に狂気を帯びていく。命乞いをする映画監督の目を潰して殺し、助けられた筈の前任者(拷問を受けていたマスクマンの一人)を容赦なく爆殺し、殺しの記事を収集しベッドやテーブルにそのスクラップをまき散らす。キッチンにも記事を置くという事は、繰り返し読んで喜んでいた事の証左だろう。

「貴様のように血に飢えた人間など見たことが無い、そのマスクの下の顔が見たくなってきた!」と、最終章でロシアンマフィアのボスは言った。Jacketの暴力の答えなど、誰も用意はしてくれない。

だが、あの場所までたどり着いたプレイヤーなら分かるはずだ。

何度でも復活して。
何度でもルートを変えて。
何度でも殺す。
自分の行動に慌てふためく人々にほくそ笑む。
マスクを被っていれば、ツラが割れる事も無い。

他人を傷つけるのは好きか?

リスクの無い殺人を続けたのは、暴力を振るうのは、それが楽しかったから。好きに決まっている。もう一度言おう。「楽しかった」以外に、何か理由があろうか。

「50の祝福」の依頼など、最初に受けなければよかった。その後にだって、幾らでもやめる機会はあった。精神世界で何人もの人を殺し直し、病院で目覚めても殺しを止められなかったJacket。そして、覆面殺人鬼となって「暴力ゲーム」を遊び続けたプレイヤー。「マスクの下」にあったのは、間違いなく笑みだったはずだ。

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上はJacketが警察署襲撃から得た情報を元にたどり着いた場所
下がRiderがPHONEHOMハッキングから得た情報を元にたどり着いた場所
流れるBGMは、同じである。

この二人、辿り着いた場所は同じだった。
同じだったのに、Jacketは真相にたどり着けなかった。

Jacketがそのまま前に進んだのは、前に進むしか道が無かったからだ。じゃあ「道を間違えたからロシアンマフィアは殺されねばならなかった」とでも言って、殺された側が納得するだろうか。そんなわけがない。ゲームデザインはJacketを前へと進ませた。レベルデザインは前へと進ませた。

それでも。

それでもトリガーを引いたのは、他でもないJacketで、プレイヤーだ。

いいか、俺は政治に興味なんか無いんだ。

Riderによる電話会社襲撃を受け、JacketはRiderの殺害に乗り出す。5月23日、これが全ての分岐点だ。Jacketが見事にRiderの殺害した場合、「50の祝福」は存続し続け、ロシアンマフィアのボスの殺害によってJacketの物語は終わる。彼女の写真を燃やし、ベランダに佇むJacket。殺し尽くした先にあるのは、虚しい勝利だけだった。

が、どうやら物語の正史……というか現実はRiderによる勝利だったようだ。Jacket編の終了後に時計は巻き戻り、Riderによる尋問から「Rider編」がはじまる。言い方は悪いが投げっぱなしジャーマンである。Jacket編は精神世界内な上にやっぱり非現実でした!イェーイ!あの時点でJacketは死んでたぜ!どこの80年代のB級映画だ。いや合ってるから良いのか。何にせよJacketの復讐は精神世界なりパラレルワールドなりの話だったわけだ。

Riderは「指示に従い殺し、殺しの為に殺す」というJacketとは正反対のキャラだ。他の覆面殺人鬼を捕まえては話を聞きだし、「だれがこんな狂った事をしているか」を追求していく。Jacketのように50の祝福のニュースレターを購読したものの殺人に飽き、マスクマン同士の殺し合いにも飽きた「終わらないゲーム」に飽きた存在である。

Riderは5月23日、電話会社のコンピュータをハッキングし、50の祝福のマイアミ支部を突き止める。5月24日に乗り込んだ彼はそこで2人の男と対峙する。電話をかけ、殺人を指示した二人だ。ここでゲーム内の収集要素のパズルピースを集めておくと、彼らのコンピューターのハッキングが可能となる。ゲームを終わらせる存在のRiderは彼らにとって外の世界であるはずのパズルを解き、コンピュータの画面を眺めてこうつぶやく。

「…なるほど。これはあんたのゲームって訳か?」

プレイヤーと「50の祝福」に踊らされてきたRiderの前で、今更政治的な意図がどうこうだとか、アメリカがどうこうだとか、あと5年で成果が出る(ソ連崩壊と冷戦の終結)だとかを並べる二人の男は、肥大化した近年の「設定」や「政治描写」の暗喩だろう。確かにそれは綺麗に終わらせるには必要だ。だがプレイヤーにも、そして終わらせる存在であるRiderにもそんなことは「興味の無い事」である。そんな興味の無いことをだらだらと並べる輩は、申し訳ないが死んでもらう他ない

これがゲームでなくて何なんだ

Jacket編。電話メッセージによる指令と見せかけて、5月23日以降のミッションでは受話器を上げた時点で「新着メッセージは1件です」の音声が流れない。「他者からの反応」であるはずの新聞も無い。Rider殺害後はミッション後の日常パートばかりに目が行きがちだが、そこかしこに狂気が満ちている。彼は「指示された」という事実だけが欲しくて受話器を上げ、殺したくて殺していたのだ。

「殺すことが楽しいゲーム」を作り上げておきながら「ほら殺したくて殺していたんだろう!今更暴力を否定など出来るものか!」とは、なんて意地の悪くて、サイコーなゲームなのだろう。当たり前じゃないか。殺したって文句を言われないし、警察にも捕まらない。行きつけの店の兄ちゃんは自分のやった事を噂してるし、新聞だって騒いでる。可愛い(?)姉ちゃんだって家で待ってる。ゴキゲンなBGMは流れてるし、何度死んだってやり直しは簡単。誰が指示してるとかはどうでもいいんだよ。殺せれば僕はそれでよかったんだ。

Bioshockアサシンクリード以降の「メタ展開」を、89年代風の皮に包んで、原始的なのに最新に面白い殺し合いを提供する。

これがゲームでなくて何なのだろうか。
これこそが、HOTLINE MIAMIこそが、ゲームなんだと私は思う。

 

結局、50の祝福がどうだとか、大物がどうだとか、Jacketの精神世界は何だったのかは語られなかった。だけどもボーナスステージではまたJacketがマスクを被って彼女の死体を回収しに悪魔崇拝カルト教団(警察病院も一枚噛んでる)と戦っていたりするし、他の州での覆面殺人鬼の戦いもまだまだ続いていくんだろうと思う。Jacketに鶏マスクの男の幻影が託した「一つの秘密」も分からずじまいだ。それが2なりDLCなりで補完されるかもしれないし、されないかもしれない。

何が起きようとも、JacketとRiderの戦いと、この狂ったマイアミでの体験への評価は絶対に揺るがないだろう。HOTLINE MIAMI、本当に面白かった。ありがとう。