天気の子について書いたら監督に読まれた上にアンサー貰った話と、あの日とあるオタクに何が起こっていたのか。

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 私の記事がはてなのベストセレクション2019に選ばれました。

 

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  選ばれたのはもちろんこの記事。『PS2版天気の子を俺たちは遊んだことが有る気がしてならないんだ。』です。

 

 大反響でした。
 あまりにも、大反響でした。

 

 その記事はminori作品(新海さんが作品のアニメーションを制作していました)の主題歌を担当していた原田ひとみさんに届き――

  また、メモリーズオフシリーズやカオスヘッドシュタインズゲートのライターの一人である林直孝さんに届き―― 

 

 

そして。

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新海:僕は、冲方丁さんのは怖くてまだ読めてないです(笑)。ブックマークだけはしています。

「2000年代美少女ゲームが原作である」みたいなみんなのネタもネットで見ました。

例えば、夏美ルートにいってしまう場合、ここのイベントは発生しない、いろいろあってトゥルーエンドがこの映画とか。

なるほどねと。確かにそんな解釈もできるかもねと思ったりしましたね。

それで盛り上がってる事自体はすごく嬉しいんですよ。今の若い子とかで「え? これ美少女ゲーム原作だったの?」って真に受ける人がいたりして(笑)。違うって否定して回るのも大人気ないから黙っているんですけど。

 

kai-you.net

 

movie.walkerplus.com

中には「2000年代の美少女ゲームのようだ」と言っている方々いて(笑)。僕は昔、美少女ゲームのOP映像を制作したこともあったのですが、当時を知っている30〜40代、あるいは50代くらいの方が『天気の子』を楽しんでくれていることに同じ時代を生きてるんだなという嬉しさを感じます。

その方々の感想で「本当は夏美ルートと陽菜ルートとが存在して…映画版はトゥルーエンドだ」といった意見もSNSで見かけるのですが、その気持ちも分からなくはないんですよね。選択の分岐が見えるみたいな(笑)。面白いこと言ってるな、と思いながら読ませていただいてます。

 なんと、新海さんに届いてしまったのです。

 

 

 

  私の感想とも、妄想ともつかない叫びがついに届いてしまったのです。

 

 ブロードバンド網が引かれ始め、WindowsXP搭載パソコンが出回りだしたあの時。間違いなくアドベンチャーゲームは、ビジュアルノベルは、私の「最先端の娯楽」でした。音楽と、音声と、様々なイラストやエフェクトで彩られた物語をプレイし、エンディングを迎えて夜明けの空を見上げた日々が、私の青春の一部でした。

 教室の隅で一人本を読むよりも、もっと深く。専用の機器を必要とするような物語を読み耽る。それは恋についての話だったり、過ちに改めて向き合う話だったり、サイバーパンクだったり、吸血鬼であったり、ロボットアクションであったり、日本によく似た別の国だったり、枯れない桜の島の話だったりしました。

 でもそれは少し考えてみなくても、論理的に破綻していたり、ありふれた展開であったり、山場を作るために人が死んだり消滅したり。既存の物語よろしく陳腐な要素はもちろん内包していましたし、そもそも結ばれた2人の”そういう行為”まで描くからこそ「エロゲー」だとか、「ギャルゲー」だとか呼ばれていたわけで。理由は人それぞれあれど、どこか公言するのは憚られるものがあったのは事実でした。

 

 しかし。

 

www.youtube.com

日陰者みたいな気分で彼らは語っていますけど、彼らのような人々にリーチする力のある人物が自分の世界や想像性を共有して、それが広がってきてるような気がするんです。

僕は昨日、新宿を歩いていたら、小学生の女の子を連れたお母さんに声をかけられて、「今、バルト9で見たんです!」って言われたんです。「この人監督よ! 握手してもらいなさい!」って。

小さな女の子に、僕のことが分かったのかな? と思いながら、「ありがとう」って握手したんです。

2000年代に僕らが見ていたものが続いてきて、『天気の子』になって、20代の母親が小学生の女の子を連れて行って見るような映画になっているんです。

だからもっと誇りに思っていいと思うんですよね。自分が好きなものを。

  

 作品のそこかしこを「私の好きだった何かのようだ!」等と拾っていった言葉を全て消し飛ばすのではなく、そう言ってきた私達に。そして過去に様々な物語に触れていたあの日の私達に。新海さんは「もっと誇りに思っていいと思うんですよね」と言ってくれたのでした。

 

 

 

 

 そんな事が2019年の夏にあったんだよって。誰かに話したかったんです。

 

 

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 ここから、あの映画とあの記事に至るちょっと前の話をします。

 あの映画が劇場で公開される少し前、京都で大きな火事があり、沢山の人が亡くなりました。その時に僕の学生時代の友人が亡くなっています。

 何年も前に「アニメーションの制作会社で働くことになった」と話したのが最後の会話でした。 彼と「オメガブーストが如何にヤバいか」「ANUBISというゲームが如何に素晴らしいか」を語らった時間は、間違いなく今の自分を形作っています。

w.atwiki.jp

 

 『こみっくパーティー』だとか『サモンナイト』シリーズだとか『うたわれるもの』だとか、『テイルズオブ』シリーズだとか、『スターオーシャン』シリーズだとか、あの頃の話題はそんなゲーム達でした。

 そんな彼が公には「安否不明」なまま。せめて何か創作にでも触れないと精神が潰れるぞと身体を無理やり奮い立たせ劇場に足を運んだのが『天気の子』です。

 

 『天気の子』に原作ゲームがあった!なんてのは、もちろん嘘です。だけど私が「まるであの頃のようだった」「そしてその先を見せてくれたよ」と思ったのは確かな事で、どうしても私の中の熱を書き出したくてしょうがなかったのでした。そして出来上がったのがあの記事です。

 

 結果、その「嘘」で多くの人を笑わせたり、驚かせたりすることが出来ました。最後にちょっとだけ本当の話を織り交ぜたあの記事は、本当にたくさんの人に読まれました。15年以上に渡り、こういう文章書きをやってきたのは、きっとあの記事を書くためだったのかも知れません。

 「また今度」と別れた彼とは、もう二度と会えません。僕にとっての青春がまた一つ終わった時でした。しかし、あの日々から続いて、始まっていくものが確かに劇場にあった。ドリキャスだとか、PS2だとか、そんな事を書いたのは……単にサブカルチャーや新海さんの辿ってきた道の話でなく、僕自身の人生の「あの頃」と、繋がった「今」の話をしたかったんです。

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  これで2010年代の記事はおしまいです。

 また2020年代にお会いしましょう。