Spec Ops: The Lineという化け物の話をしたい。

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「プレイヤーの選択や行動」がゲーム世界に影響を及ぼすこと自体を主眼にしたゲームは古今東西そこかしこに見られる。最近の日本のゲームで最も著名なものを挙げるならば、「Steins;Gate」だろう。メールを送らなかった世界線を知っているからこそ、メールを送る指に力が入る。あり得た未来を否定し、「たった一つのたどり着くべき世界線」へ向かうオカリン。プレイヤーも、ただの読むゲームとは桁違いの没入感を得られた。

今回紹介するのはSpec Ops: The Lineという、ドイツの生んだTPSである。巷ではHotline miamiやFAR CRY3に並ぶ「メタネタを取り扱ったゲーム」と言われている本作を、ノーマル難易度で一周してみた。

ドバイへようこそ。

 

※この記事は残虐なスクリーンショットを含みます。

 


ギアーズオブウォースプリンターセルを見た人々のTPS

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ゲームシステムはギアーズオブウォースプリンターセルコンヴィクションを足して2で割り損ねたような、カバー有りTPSである。ギアーズオブウォーと違い、そして良いところは「敵が柔らかい」という所だ。ヘッドショット以外じゃ中々死なない灰色の筋肉だるまの相手にストレスが溜まっていたならば、ここに一つの回答がある。何せ相手は米兵だ。

そう、米兵である。敵は「武装したドバイ市民」と「米兵」だ。主人公はデルタフォースの一員として砂嵐に襲われたドバイに救援に向かい、そこで取り残された先遣隊の米兵と殺し合う事になる。数あるシューターの中でも、クーデターというわけでも無しに同じ国の兵士と殺し合ったのは、この主人公である「ウォーカー大尉」と「サム・フィッシャー」ぐらいじゃないだろうか。

他にも同じようなテーマの作品があったら是非お教えください。

本作はCoD的な「頭をひょこひょこ出しながら敵の頭を撃つゲーム」に、ドバイならではの「砂嵐による視界悪化」と「高低差」が特色として備わっている。この高低差はなかなか効果的に機能しており、前からの敵には撃たれない地点でも上から撃たれるので一地点に隠れておけば大丈夫というワケでは無い。小刻みにカバーポイントを移動し、素早く敵を仕留めていくことが求められる。

部隊ものの「ルート分岐の支援」「ジップラインによる強襲」など、最近のレールシューターなTPSの要素は一通り揃っており、ゲーム的なギミックだけを見ても飽きの来にくいデザインだ。プレイヤーは柔らかめ、敵も柔らかめ。そして弾も少なめ。グレネードの威力はちょっと高め…という調整を施された結果、ゲームスピードはかなり速い物に仕上がっている。

さて、システムだけ見れば、このゲームはもりもり出てくる米兵をただただ撃つだけのゲームに見える。事実、やることと言えば米兵を14ステージに渡って撃つゲームだ。

では、僕がこのゲームで目撃したものを順を追って説明したい。
僕がどう思ったかもだ。


救いたかったのは。2014-05-15_00001

主人公のウォーカー大尉率いるデルタフォースのドバイ捜索チーム。彼らは砂嵐に飲まれたドバイへ一足先に向かった先遣隊「第33大隊」を助けに来た所、ゲリラに襲われ戦う事になった。序盤はゲリラとの戦いである。プレイヤーはこう思うだろう。「ゲリラと化したドバイ住民に第33大隊は襲われ、身動きがとれなくなっている。助けに来たはずの人々を殺すのは忍びないが、殺しに来るのだから仕方ない…」と。

 

 

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ゲームを進めたプレイヤーの目の前に現れるのは、難民が暮らしていたキャンプ。そして水を取り合って殺し合った人々の亡骸だ。彼らにも生活があり、子供だっていた。Spec Ops: The Lineにも収集物があるわけだが、他のゲームと違い主人公であるウォーカー大尉の目から見た現状が語られるのが特徴だ。この手の収集物は面倒な位置にあるのが世の常だが、本作では収集物による読み物もストーリーに組み込まれているので面倒が無い。ここで見つけたのは子供の人形だ。

僕は誰に向けてトリガーを引いたのだろう。


 

誰と戦っているんだろう。

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進める内に明らかになるのは、第33大隊の仲間割れ。そして虐殺だ。半年に及ぶ砂嵐の被害で無政府状態にあったドバイを救うには、第33大隊による支配が必要だったというのだ。「米軍によるドバイへの干渉と粛正」などと言うものが世界中に知れれば、合衆国の国際的地位がどうなるかは火を見るより明らかである。

もちろん合衆国も黙ってはおらず、CIAのエージェントを派遣している。そのやり方もまたえげつなく、第33大隊の支配に反感を持った民衆を煽りつぶし合いをさせるという物。しかしウォーカー大尉は第33大隊の隊長、コンラッドの英雄的活躍の数々を知っているので納得は出来ない。ウォーカーにとっては命の恩人のコンラッド隊長がこんな事をするにも、何か理由があるはずだ。そうに違いない。

 

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CiAのエージェントと接触したウォーカー隊は、時に砂嵐に飲まれながら、時に民兵を殺しながらドバイの探索を進める。あるとき難民と第33大隊の悶着に遭遇したウォーカー隊は、デルタフォースをCIAのエージェントと勘違いした第33大隊と交戦状態に陥った。

救うべきドバイの民に続き、同じ国の人間、そして同じ目的を持ったはずの米兵とまで殺し合いを演ずる事になったウォーカー隊。動揺しないわけが無い。行く先々で「デルタだ!殺せ!」「米軍だ!殺せ!」の声と共に殺し合いが始まる。一体みんなどうしてしまったというのか。きっと狂ってしまったのだ。

 

狂ってしまったのだから、殺し合うのも仕方ないに違いない。
これはゲームなんだから、撃ってくる相手を撃ち返すのは当然だ。


「仕方なかったんだ。」

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第33大隊の殺しのやり方は常軌を逸脱している。見せしめのための殺しまで行っている始末だ。しまいには奴ら、CIAのエージェントまでとっ捕まえて殺しやがった。こっちは3人しか居ないのに十人単位で兵を投入してくるし、頭がおかしいとしか思えない。建物から落ちたらわざわざ死体を確認しに部隊を差し向けるとかどうしてそんなに殺したいんだ?

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更には一区画燃やし尽くす白リンの焼夷弾の雨を降らせてきやがった。いい加減うんざりだ。こっちはあいつらが殺したCIAのエージェントの遺した「ゲート」って手がかりの場所に行かなきゃいけないのに。何でそこまでして殺そうとするんだ。何か事情があるにしても我慢の限界というものがある。

 

 

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そしてたどり着いた「ゲート」そこには警戒態勢が敷かれていた。こんな所に飛び込んで戦っても勝てるわけが無い。相手は対歩兵用の戦闘車両まで所持している。突破は難しそうだ。

 

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その横に迫撃砲を見つけた。先ほどしこたま撃たれたあの白燐焼夷弾の迫撃砲のセットである。見つけたとき、シメたぞ!と思った。正直、心が躍った。多くのシューターであれば、この手の特殊武器の登場箇所と言えばボーナスステージに決まっている。

人の話も聞かないで民衆をぶっ殺す米兵なんて皆殺しにしてやるとすら思った。

 

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迫撃が始まった。白く映る反応に、矢継ぎ早に焼夷弾をたたき込んでいく。今更容赦なんてする物か。

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橋の上にジープがいる。横に沢山見えるのは全て人だ。僕は何一つ躊躇すること無く、ジープへ迫撃を行った。動くものが居なくなるまで撃ち続けた。他のゲームでもそうしたように。

 

 

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「やり過ぎだ」仲間が何か言っている。知ったことか。こちらは行かなければならない場所がある。第一、銃で撃ち殺すのも迫撃砲で吹っ飛ばすのも殺すってのには変わりがないだろ。

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まだ生きている人間が居た。ウォーカーは「自業自得だ」と言い放つが、ゲート守備隊のこの一言で状況は一変する。

 

「俺たちは…助けようと…」

 

 

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見渡してみると、明らかに非武装の死体が大量に転がっていた。さっき連行されてた民間人か?まさか、有り得ない。第33大隊は圧政を敷いて粛正を繰り返していた狂気の集団なんだろ。そんな。ゲリラから難民を守ってただけだなんて。

 

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おれが迫撃砲を撃たなければよかったのか。迫撃砲を手に入れた時に喜んで、ニヤニヤしながら何もかも吹き飛ばしていたおれはなんだったんだ。おれはどうすればいいんだ。どうすればよかったんだ。

 

 

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第33大隊の仲間割れの痕跡がまたも見つかった。生きたまま焼き殺されたんだ。コンラッドはこういう事をする奴なんだ。民間人があの場に居たのだってきっと盾として使うつもりだったからだろ。祖国の旗をこんな風にするって事はもうアメリカに対して何か考えている事なんて無いはずだ。

そうだ、仕方が無かったんだ。僕のせいじゃない。


「ドバイへようこそ」

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無線から声が聞こえる。「ドバイへようこそ」第33大隊の指揮官、コンラッドのものだ。奴はこの出来事も見ていたに違いない。この状況も奴が仕込んだものだろう。奴はドバイで最も高い建物、ブルジュ・オーロラから見ていたに決まっている。ウォーカー隊は、殺めてしまった民間人の「復讐」のため動き出した。

 

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コンラッド。あんたはこんな事をする人じゃ無かった」
「君の命を救ったからそう思うのかね?だが奪った命の数は遙かに多い」

この作戦だってそうだ。あんたは助けるべき民衆相手に恐怖政治をやって、救うべきゲリラを撃ち殺して、仲間だって吊って晒し者にする人間なんだ。助けるために何人死ねばいいんだよ。

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CIAのエージェントと合流したウォーカー隊は「ゲート」、水の最後の供給源であるアクアスタジアムへ向かう。タンク車を強奪し、それを交渉材料にすれば戦いは終わる。これでこの狂った戦いも終わりだ。終わる筈なんだ

 

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死闘が始まった。第33大隊も本気だ。ここの水を奪われれば、難民を抱える事も難しくなる。終わるんだ。これで、全て。「私がみすみすこの街を死なせると思ったら大間違いだ!」この状況でもコンラッドは高みの見物だってのか。クソ野郎。寄ってきた米兵をグレネードランチャーでミンチにしながら俺たちは進む。これで、これで、これで……

 

 

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終わらなかった。CIAのエージェント、リグスは意図的にタンクローリーを横転させ、「最後の水」を駄目にしてしまった。後から分かった話ではあるが、CIAの目的は「ドバイから水を奪い、干上がらせ皆殺しにする事」だった。まんまと利用されたんだ。利用された。されたなら仕方ねえ。仕方ないんだ。多分。民衆が水を確保しているが、そんな風にやったところであと何ヶ月も持つわけが無い。終わりだ。終わったんだ。

 

 

 

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リグスがタンク車に挟まって動けなくなっていた。何か言っている。もうどうせ長くないから自分にトドメを刺してくれと頼まれた。知ったことか。おれたちを利用したくせに。

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奴は奴の起こした事故の炎に飲まれて死んだ。おれが手を下すまででもない。

 

ウォーカー隊の次の目標は、コンラッドじゃあない。街中に耳障りな放送を垂れ流しているDJだ。あいつの放送設備を借りれば、助けを呼べるかも知れない。水が無くなった、早く助けを呼ばなければ、本当に手遅れになる。


Hero Killed Radio Star

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高層ビルの上には頑丈なロープが渡してあった。物資を輸送するのに使っていたんだろう。いちいちヘリを飛ばしたり降りたりするよりも効率的なやり方だ。ウォーカー隊はそれを利用して、第33大隊のプロパガンダを続けるラジオ塔へ向かうことにした。

 

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抵抗にこそあったが、制圧は難しいことでは無かった。米兵を撃ち殺す度に「そいつは妻も子供も居たのに」「そいつはあと一週間で除隊だったのに」とDJが煽ってきたが、今更知ったことでは無い。ラジオ塔に乗り込みDJを殺す。コンラッドが「1300人が死んだんだぞ」などと言っている。お前はずっとブルジュ・オーロラの上で偉そうにしているだけだろ

 

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ヘリの奪取にも成功した。第33大隊の野郎共、そんなにドバイが好きならドバイで死ね。

 

 

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コンラッド、見ているか。コレが俺たちの反撃の証だ。

 

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このままブルジュ・オーロラまでひとっ飛びだ。追手はみんな撃ち落としてやる。これで全て上手くいくと思っていた。だが、砂嵐飲まれたヘリは墜落し…

 

ウォーカーは夢を見た。


 

The Line

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地獄の業火に焼かれるブルジュ・オーロラ。
ウォーカーを責め立てるコンラッドの声。

仕方が無かったんだ。
自業自得だと思ってるんだろう」
仕方が無かったじゃ無いか。
「君たちが来る前、ドバイには5000人の人間がいた。」
「それが今は何人になった?明日は何人になる?」

もうやめてくれ。
「どうやら私は間違っていたらしい。
この街の本当の敵は砂嵐では無い。」

「君だ。」

 

 

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ヘリが墜落し、ウォーカー隊は散り散りになってしまった。隊員の一人、アダムズとの合流は成功したが、狙撃手のルーゴが見つからない。

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DJのテープがみつかった 。最初はあのDJも、善意から始まっていたようだ。
今となっては、どうでもいい。
何もかもどうでもいい

 

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ルーゴは難民キャンプに逃げ込んだ。彼は腕も折れ、満足に動けない状態だ。早く合流しなければならない。難民キャンプに逃げ込んだならもう安心だろう。

 

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だが無線から聞こえてきたのは「近寄るな」「助けてくれ」「来るな」というルーゴの叫びだった。急がねば。急がねば、何かが……

 

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ルーゴは逃げ込んだ難民キャンプで、私刑を受け吊された。これもウォーカー隊が、任務のために人を殺し続けてきた結果だというのか。

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盾として使う気は無かった。
危害を加えるつもりも無かった。
おれは、君たちを助けるために、ここまで来たのに。
どうして。
頼む、通してくれ。
おれたちはコンラッドを、
こんな事になった元凶を

 

 

 

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片付けろ。


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最早この光景が幻覚だろうが、どうでもいい。

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おれが悪だろうが、どうでもいい。

 

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コンラッド、おれは、お前を殺す。


Do you feel like a hero yet?
(まだ英雄気取りか?)

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気がつくとウォーカーはブルジュ・オーロラの入り口に居た。どうやって来たかは、この際どうでも良い。ウォーカーはついに、コンラッドと対峙した。

 

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コンラッドは「ここで起きた現実から逃れることは出来なかった。私は負けたんだ」と語った。描かれた絵は今までウォーカーの引き起こしてきた惨劇をモチーフとしたものである。

 

 

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「ゲームは終わりだ、ジョン」

そう言ってコンラッドに近づくと。

 

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そこには、ひからびた男の死体が。

 

 

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「ここでの私の行動は随分脚色されたようだな」
暗転した世界で、コンラッドは語る。


 

Across The Line(考察と解説)

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結論から言おう。ウォーカー大尉の聞いていたコンラッドからの無線など実在せず、全てはウォーカーの生み出した幻聴だった。ウォーカーは度重なる戦闘とドバイの凄惨な光景で徐々に精神を病み、焼夷弾を用いた民間人殺しをきっかけに解離性同一性障害。つまり多重人格を発症していたのである。

仕方が無かった。おれのせいじゃない。自業自得だ。任務のためにやったんだ。そんな風に目をそらして、前に進むために。誰かが必要だった。ドバイの民間人を粛正し、恐怖で支配する第33大隊の隊長コンラッド。彼のせいにする事が、ウォーカーには必要だった。

Bioshockが「自分の意志で戦っていたつもりが、任務に操られていた物語」ならば、Spec Ops: The Lineは「自分の意志で戦った理由も結果も、他者に押しつけていく物語」である。パソコン越しの戦争で民間人を殺し、守るために殺し、一度始まった戦いは失った命のために後戻りは出来ない。戦い続けるにも理由が居る。正当化しなければ殺し合いなどやっては居られない。

あまり軽くこの言葉を使いたくは無いのだが、Spec Ops:The Lineはそういった「狂気」に真正面から向き合った物語であると私は思う。「娘を連れてくれば借金は帳消しだ」でおなじみのBioshock:Infiniteよりも、自分に嘘をつき続けることについて納得がいく物語でもあった。

民兵だって、CIAだって、第33大隊だって、デルタフォースですら、自分のために…命を生き延びさせるために戦っていた。全てがかみ合わず、最悪の結果を迎えただけで、きっと選択次第ではドバイの5000人の生き残りが幸せに生きる道もあっただろう。だが、そうはならなかった。

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吊られた二人の男。
一人は水を盗んだ男。
一人は盗人を捕まえる際に巻き添えで無罪の人を5人殺した男。

どちらかを裁け、とコンラッドに言われる箇所がある。ここで取れる行動は3つだ。どちらかの男を殺すか、または上から狙うスナイパーを殺すかだ。取れる行動こそあるものの、どれを選んだとて結末は変わらない。スナイパーを殺そうとすれば二人は死に、男を裁こうものならもう片方はスナイパーに殺されてしまうからだ。

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水をダメにしたCIAのエージェント、リグスに殺せと命令される箇所。ここは彼を撃ち殺そうが、放置しようが、彼はそのまま死んでしまう。プレイヤーがウォーカーの言うままに、ウォーカーの中のコンラッドの言うままに、トリガーを引いてきたことを考えれば、今更出来ることなんてない。些細な選択の自由など。今更

だがシュタインズゲートのDメールしかり、Spec Ops: The Lineにおけるトリガーしかり、Hotline miamiのロシアンマフィア相手の殺戮しかり、ゲーム側に導かれたにせよプレイヤーが自分の意志でもってそれを行ったというのは、ただただデモムービーとテキストメッセージでゲームを語るより段違いの没入感をもたらす。Spec Ops: The Lineは、間違いなく傑作である。怪作であり、化け物であった。こんなソフトがそうそうあってたまるものか。


物語の締めくくられ方について。

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コンラッドの遺体を発見後、ウォーカーは自分の作りだしたコンラッドと精神世界で対話を行う。誰かを傷つけるつもりは無かった。おれのせいじゃないんだ。だがここに来て全てに気づいたコンラッド=ウォーカー大尉は、自らの死でもって全てを終わらせることも善と捉えている。これだけの事を行った人間が、のうのうと生きていて良いわけがない……

 

 

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精神世界で自分自身を撃つ=自殺を選ぶと、ウォーカーはその場で頭を撃ち抜く。最早動く者の居なくなったドバイからは、ゲーム開始時と同じようにコンラッドの自動メッセージが送信され続けるのであった……というエンド。

 

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コンラッドを撃つと、「もう気に病むなよ、あんな事をしてもまだ帰れる場所があるんだからな……」ともう一人の自分に別れを告げ、エピローグに物語が進む。

 

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(自由とは、自らの身に起こったことに対して取る行動である。)

エピローグでは数ヶ月後、ドバイのただ一人の生存者となったウォーカーの元に米軍が迎えにきたところが描かれる。ここで米軍に対して銃を向けると、完全に心をコンラッドに飲まれたウォーカーが「ドバイへようこそ…」と呟いての発狂エンドとなる。

 

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米軍を殺しきれずに射殺された場合、自殺とは又違うデッドエンドが待っている。「我々には越えなければならない一線がある。成すべき事を成して死ねれば本望だ」とコンラッドの幻聴の中、ウォーカーは息絶える。

 

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そして米軍に何もせず武装解除した場合、米国への生還エンドとなる。米兵に「どうやって生き延びたのですか」と質問され、「生きてなどいないさ……」と答えるウォーカーがカメラに映ってエンドだ。

 

ここで日本語によって書かれたSpec Ops: The Line評を二つ紹介する。

spec ops the line「スペックオプス・ザ・ライン」 感想と考察・砂嵐の奥にて: GAME・SCOPE・SIZE
http://game-scope-size.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/spec-ops-the-li.html

Spec Ops: The Line
http://seiryu.or.tv/3dtps/Spec_Ops_Line/Spec_Ops-top.html

エンディングをどう解釈するか。それ前にそもそもシナリオ製作が難航しており、一人の人間が一本筋を通せたものでは無かった。という事が明らかになっている。その上で、僕なりの解釈を述べたい。

Spec Ops:The Lineは幻覚混じりの回想の物語ではあるものの、それは「ループもの」なんてものでは無く、人を殺し続けた獣のような男の物語だと思う。ヘリの撃墜をもってして「ドバイの真の敵は君だ」と時系列に追いついて悪夢を見るわけだが、それでもウォーカーという男はしぶとく蘇り、闘争を続ける。実績のアイコンにゴキブリがあるのは、こんなことをしても生きてしまうウォーカーの本質を実に良くあらわしていると思う。

この手のマルチエンディングで「どれが正史か」なんてのは無意味なのも分かっては居る。分かっては居るが、やはり僕はウォーカーという男に生きていて欲しい。己の中のコンラッドと決別し、現実を受け入れ、それでもなお完全に狂いきる事無く。生きていて欲しい。

砂嵐に飲まれ、民も同胞も皆殺し、街を干上がらせ、それでも死ねなかった愛すべきクソ野郎。彼には最後まで、地獄のような現実を生きていて欲しかったのだ。

 

Spec Ops: The Line 面白かった。ありがとう。
もう二度とドバイになんか行きたくねえ。

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