「人を殴るQTE」の果てに、桐生一馬がプレイヤーの手から離れる瞬間の話をしたい。

 

龍が如く0 誓いの場所 新価格版 - PS4

龍が如く0 誓いの場所 新価格版 - PS4

  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: Video Game
 

  「QTE」だとか「最後だけの特殊操作」だとかで、話を盛り上げるゲームは星の数ほどある。しかし「QTE」の後に、プレイヤーが主人公を制御できなくなる作品はそう無い。

 『龍が如く0』の話をしたい。

 『龍が如く』シリーズは御存知の通り元ヤクザを操作して徒手空拳で敵を倒していくゲームである。そしてこの主人公、桐生一馬は「不殺」の人である。そも『0』は金の取り立てで債務者を空き地でボコっただけなのに、何故か死んでたものだから「誓って殺しはやってません!」と濡れ衣を晴らす所から始まっている。

 ダブル主人公のもう片方、真島吾朗についてもそうだ。カチコミの為に銃こそ手配しても、結果として友だけを行かせる形になり結局人を殺すことはなかった。蒼天堀から出る為に「見知らぬ誰か」を殺す依頼を請けても、標的であるマキムラマコトを殺すなんて出来なかった。

 敵対する事になる東城会や近江連合はと言うと、平気で人殺しをしている。暴力の世界の住人なのだから当然といえば当然だ。作中ではコレを「黒」だとか「闇」だとか表現しており、カタギの日常的な世界を「白」と表現している。龍が如く0の最終章が「白と黒」なのは、その一線を隔てた人々の在り方そのものだ。

 

 最終章。惚れた女を撃った殺し屋を、真島は殺せなかった。幾ら怒りを露わにしても、彼は人殺しをすることがなかった。エピローグでも当初の標的であるマキムラマコトへ、「あのときの人を殺せない殺し屋は自分なんだよ」だと伝える事無く、去っていく。

 変わって、桐生一馬編の最終戦。相手は「箔」だとか「貫禄」だとか、流れた血を「看板」として使うために立ちはだかる男。渋澤だ。それに対し「くだらねえ」と吐き捨て、だが「付き合ってやるよ、そのくだらねえ戦いに!」と背中の龍の入墨をさらけ出し、殴り合いが始まる。

 

 さて、その最終戦の終局だ。敵の体力ゲージを減らし、始まるQTE。そこに表示されるのは反射神経を試すような変なボタンじゃない。今までゲームをプレイして何千回と叩いてきた「殴る」ボタンだ。当然、殴る。カメラがプレイヤーの手を離れ、目まぐるしく回る。だがやる事は簡単だ。今までやってきたように目の前の敵を打ち倒す。そのために「殴る」ボタンを押す。夜景をバックに鮮やかに渋澤が吹き飛び、バトルは終了する。

 バトルが終了しても、渋澤はまだ生きている。渋澤を桐生一馬は殴る。何度も殴る。この戦いで流れていった血と涙を思いながら、殴る。それに対しプレイヤーは何も出来ない。先程まで「殴る」ボタンで桐生と一体になっていたのに、桐生一馬はプレイヤーの手から離れて殴り続けている。

 「そうだよなあ、もう殺すしかねえよなあ?殺れや、桐生。」と囃す渋澤に、桐生一馬は腕を振り上げる。プレイヤーはもう桐生一馬を操作する事が出来ない。殺意に飲まれた主人公に対し、画面の前のプレイヤーはもう何もしてやれる事なんて出来なかった。

 

 そこで駆けつけるのが桐生一馬の兄弟分、錦山彰だ。

 錦山は桐生を力ずくで止め、そして説得する。「その一線越えちまったら、戻ってこれなくなる。勝手に先走んじゃねえよ、兄弟。いつか最後の一線を越えなきゃならねえときが来たら、そん時は俺も一緒に越えてやる。だから…!」

 

龍が如く0 誓いの場所 新価格版 - PS4

龍が如く0 誓いの場所 新価格版 - PS4

  • 発売日: 2016/03/17
  • メディア: Video Game
 

  プレイヤーの手を離れた主人公を止めるのは、切っても切れない兄弟の縁。これが意図された演出であろうがなかろうが、この一連のパートが『龍が如く0』を大傑作へと押し上げたと言っても過言ではない。もしまだプレイしていないなら、是非この結末にたどり着くためにプレイして欲しい。

 

 

 

 

龍が如く 極 新価格版 - PS4

龍が如く 極 新価格版 - PS4

  • 発売日: 2017/09/21
  • メディア: Video Game
 

  ……そして、0しかプレイしていないのであれば是非『龍が如く極』もプレイしていただきたい。桐生の居ない所で独りで「一線」を越え、しかもその罪を桐生に負わせてしまい、桐生の帰ってくる場所であるために戦っていた錦山がどうなったかを見届けてくれ。

 

 次回は『龍が如く極2』の予定ですが、また何ヶ月も空く可能性もあります。まあ待っとけや。