
モンスターハンターワイルズがそろそろHR100になる。今作について悲喜こもごもと非難轟々賛否両論あるが、それよりも気になるのは所々のシステムの不整合や妙に役立たないのに用意されている機能のたぐいだ。
というわけで今回はモンスターハンターワイルズ本編に残された痕跡そのものから、当初は何が予定され今はどうなったのかの仮説を述べていきたいと思う。
100人/50人ロビーの存在。

モンスターハンターワイルズの遊び方は概ね「ワールド」の方式だ。「集会所」とフィールドが地続きで、友人らと遊びたい時はフレンドリスト的な所から「サークル」や「パーティ」でクエストの貼られる所を統一する。そうでないパブリックの方式であれば、クエストを開始した誰かの所に「救難信号」の形で乱入していく。
ところでこのゲームでは取り敢えず適当なロビーに入る。ベースキャンプですれ違う事はあるが、実際フィールドで他のプレイヤーを見かけたことは結局一度も無い。100人いるはずなのに、だ。それどころかベースキャンプですれ違う人は装備やキャラクター造形こそ気になるものの、同じロビーにいるかと言って「一緒に遊ぶ人」かと言われると違う。現在の形では単なる背景に過ぎず、フロムソフトウェア作品に出てくる白い幻影と変わらない。
そもそも報酬に影響がない時点で「4人揃ってドン」で遊ぶのは進行度を合わせたり、それに挑むこと自体をエンタメにしている人らぐらいしか居ないのだ。救難信号は常に打ち上がっており、挑みたいボスを選択してあとは片っ端から救援を実行すればすぐに途中参加出来る。乱入者頼りに1人でクエストを始めればあっという間に4人埋まる。つまりどちらも「フィールドに出ることすらそもそも無い」作りをしている。
では何のために「ロビー」に接続させられるのか?
形骸化した天候・時間要素

DosやFでも登場した「季節」要素が復活した。復活したが、正直「今回のクエスト天気悪いな」ぐらいしか思う所もやはり無い。そもそも狩猟対象までボタン1つのオート操縦でたどり着いて、10分経たずモンスターを討伐してクリアだ。最初の砂漠は砂嵐か、辛気臭いか、鮮やかという印象しかない。用意してあるステージのうち3つは火山、雪山、遺跡となっておりこれも季節での大きな変化は実感できていない。ゲームシステムの上では出てくる狩猟対象が違う、という物がある。ゲリョスは荒廃期にしか出てこないよ、とわざわざクエストでもって教えてくる。
が、先に書いた通り「1人で雑にクエスト一覧から始める」「誰かの所に適当に入る」のゲームである。更には便利な事にワイルズでは「季節で見かけたモンスターをセーブしておいて3回だけ倒して良い」というクエスト保存機能があり、加えて季節・時間も自分で設定したフィールドに降り立つ事ができるため、この2つを組み合わせると「特定の季節・時間に設定して降り立ち、目的のモンスターが出たらセーブ」というガチャが成り立つ。これもベースキャンプから地図を開くだけで出来るため、やはりフィールドに出る必要は何一つ無い。
では何のために「フィールド」と地続きで、オープンワールドなのか?
時限性の食事、壊れていくキャンプ

食事周りもやはり妙だ。クエストに出るたびに携帯食料が1つだけ渡されるが、それ以外については何故かベースキャンプに一定時間毎に携帯食料配給みたいなものがある。やはり先に書いた通り「1人で雑にクエスト一覧から始める」「誰かの所に適当に入る」のゲームであるため、わざわざ「携帯食料を受け取る」事自体が不可解である。それならベースキャンプに「食堂」的な物があり、そこでクエスト毎に食事を行えば良い筈だ。この携帯食料を使って携帯コンロやキャンプで「料理」を行うと30分~50分の効果がある。10個渡されれば7.5時間分だ。正直使い切れない。また、フィールドにはスタミナ回復の虫もおり、敵へ向かいながらちゃんと取っておけば戦いの中で携帯食料をそのまま食べる事はほぼないと言って良い。
もう一つ奇妙なのはファストトラベル先である「キャンプ」が破壊される点である。これはオープンワールドのゲームであり、道端にキャンプを設置したらフィールドにいる生き物が壊してしまうという筋書きだ。演出では有るが「クエストで使うファストトラベル先がなんか勝手に壊される」だけでただのストレスにしかなっていない。しかも破壊されたファストトラベル先はポイントを支払うとサクっと直せる。
では何のためにこんな時限性の仕様になっているのか?
捕獲ネットの暴力と釣り竿の不要さ
いちおう今作にも釣り要素はある。以前のシリーズでも「採取装備」的なものはあり、代表格はレイトウマグロだろう。所でワールド同様、釣り要素はあるもののネットを水場に放つと大量に魚を簡単に獲得が可能だ。しかもそんなに逃げない。前述の「自分で設定した時間にする」を組み合わせると、時間の許す限り無限に稼ぎが可能だ。
が、そもそも魚もくだんのレイトウマグロ以外使い道が無い。強いていうとキレアジの鱗が砥石より研ぎ回数が少ないというのもあるが、今作は切れ味が消耗し切る前にすぐ敵がエリア移動するし、移動中に研げるので出番がない。
更には携帯食料はご丁寧に肉・野菜・魚の3つに分かれている。では何のために?
ここで冒頭のIGNでのインタビューを引用する。
すべてのハンターに、ドラマチックな瞬間を
「ワイルズ」では、クエストを発注して当該モンスターを討伐する従来のゲームサイクルも残されているが、徳田氏によると、「ワイルズ」ではフィールドのモンスターをハンターが把握して、状況に応じてモンスターを適宜狩っていきたくなるようなゲームになっているという。
たとえばこんなシチュエーションがありうる、と徳田氏は説明する。装備を作るための材料を求めて、隔ての砂原をセクレトに乗って疾走していると、砂塵の向こうにふと、目標としてはいない大型モンスターの姿がよぎる。すでにほかのモンスターと交戦でもしたのだろうか、体にいくつか傷を負っている。そのモンスターの素材が今すぐ必要というわけではないが、報酬は非常に大きい。一瞬の逡巡ののち、踵を返して先ほどの傷だらけのモンスターを追う。ハンターに必要なものは、臨機応変な判断力だ。「ワイルズ」には、そんな体験が可能な世界が用意されているのだ。
発売日からそろそろ一週間欠かさずプレイし40時間遊んでいるが、そんな事は一度もない。素材を求めて疾走自体していない。目標としていないモンスターは単にクエストの邪魔でしかない。そもそもフィールドに出ることが「ない」のだから……
ここまでの痕跡をまとめた上で、一つの仮説を述べる。
誰かがAnthem化を止め、モンスターハンターを取り戻した。
100人入れるロビーでは人々がフィールドをうろつき、リアルタイムで時間・天候・季節が変化する。クエストは「選ぶ」のではなく、全員がフィールドにまず出かけるのが大前提。地図を見て目当てのモンスターに向かう途中で救難信号が打ち上がり、それを見かけたプレイヤーは信号の発信元へ向かう。そこでは他のハンター達が戦っている。狩猟開始。狩猟が完了するとプレイヤー達はほんの少しのコミュニケーションを取り、また各々の目当てのモンスターに向かう。一度採取したアイテムは15分置きにしか回収できないので、この季節のモンスターを狩って採取が終われば次のマップへ。
簡易キャンプがあればいいが、時々壊れてしまう。だから簡易キャンプを直しに行く。その道すがらまた別のモンスターがおり、倒さなくてはいけない。次は自分が信号を打ち上げる番。モンスターを倒し、そろそろスタミナが減ってきたので周りにモンスターが居ないことを確認し携帯コンロで食事を取る。携帯食料でも良いが現地で調達した肉や魚に香辛料を使ったほうが能力も上がるし腹持ちも良い。そうしてたどり着いた簡易キャンプで荷物整理と補給を行い、ベースキャンプへの旅がまた。その帰路で稀少なモンスターに出会ってしまい…
という構想だったのではなかろうか。
ここまで述べた全てのシステムが「フィールドに出っぱなし」「フィールドで誰かと出会う」「フィールドに居るだけで情景がガラっと変わる」「モンスターに向かって走るのでなく、フィールドで探索と狩猟を長時間連続で行う」という、偶然のドラマを大前提として作られているように思えてならない。この発想は旧来のMOやMMOの発想であるが、その為には低く見積もっても1万人単位での同時接続が必要であり、それでも「フィールドで偶然出会う」が難しいことはFF14がFATEシステムで既に証明している。
にも関わらず、インタビューではしきりに「生態系」の話をしている。何度も言うが今作でそんな良く出来た「ワイルズ」を感じたことは無い。油涌き谷の火走りに至るまで「モンスターをハントするゲームなのに延々と人間とキャラクターの文化、あとはマップの小物の話ばかりしている」としか思えなかった。明らかに語っている理想像と実装が異なっている。なんならストーリーモードも特にレダウ戦前と後で明らかに作りが異なっている。
Anthemというゲームがあった。広いフィールドを飛び回り、探索し、時にランダムなミッションで見知らぬ人と共闘する。そういうコンセプトだった。しかしマップに接続出来るのは技術的制約からかたった4人で、結局特定のクエストを周回するのがシナリオクリア後のコンテンツだった。そして
私にはこのAnthem同様の成立し得ない夢物語を、何者かが押し留め、時間を好きに設定出来るようにし、マップに湧いたクエストを保存できるようにし、受付嬢に話しかける事で「従来と同じように」「ハクスラとして集中できるように」きちんと作り直したという風にこのモンスターハンターワイルズが見えるのだ。
この仮説が本当であったかどうか、きっと確かめる事は今後もできないだろう。だがこの「ベースキャンプからクエストに出るだけ」のゲームの割に、各種システムが非常にちぐはぐな作りをしている事だけは確かだ。その影に、誰にも歌われぬ誰かの努力があったのではないか。そう考えてしまう程、モンスターハンターワイルズは「大自然」を謳う癖に「不自然」が溢れているゲームだ。
あ、本編は歴戦アルシュベルドとゴアマガラ倒したらマジでやること無いのでそれを覚悟の上で買ってくださいね。

