俺とお前はにじさんじGTAをもっと目撃すべきだ/あるいは十日間だけ存在した永遠のメタバースについて

永遠の十日間に、人々は今も恋い焦がれている。

 

 にじさんじGTA、略してにじGTAという企画がある。このブログ風に解説を書くなら「GTA5にマルチプレイヤーMODであるFiveMを導入し、既に好評を博しているストグラにじさんじのみで行ったもの」等となるだろうが、今回紹介したいのはそういう意味でではない。この企画を通じて「ゲーム内経済の面白さ」「システムが導いた行動の面白さ」もそうなら、「ライバーという人々の群像劇の面白さ」のお話だ。

 ひとまず、本腰を入れて各種動画を見る前に共有されるべき事項だ。

  1. にじGTAはプロレスであり、エンタメである。
    いわゆる管理者権限(神と呼ばれる)を持っている星川サラ、叶という二人以外にも、既に同様の企画参加者である一部プレイヤー間では「わざと見逃す」「情報を流す」「何なら所属組織を跨いで教育したり、力を貸す」という事が行われている。なので所謂ガチプレイという事でないのは頭に入れておくべき。

     期間中警察の副所長でありながら謎の全身紫異星人の「パープルメン」として立ち回ったエクス・アルビオは間違いなく助演男優賞モノ。

  2. にじGTAの中で、ライバーはロールプレイをする
    にじGTAの中で演者たちは「プレイ中に知り得た情報」を利用しながら「ロールプレイ」を行う。医者なら医者、警察なら警察、キャバ嬢、タクシー運転手、ギャング、スーパーアルバイター等に基づいたロールプレイ、即ち一定の「演技」を行っている。そこでは上司と部下、医局長と所長、パン屋とその看板娘という「設定」が貫かれる。
  3. にじGTAは、その結果壮大な群像劇となる。
    にじGTAの中で起きる様々なイベントは全てが出たとこ勝負、どういう事がその後どうなるかは誰にもわからない。ふとした時にかけた電話が、切り間違えたハンドルが、通りがかった誰かにかけた一声が、ありとあらゆるものが即興劇になっていく。100名以上の参加者が全て何らかの意図を持ってプレイしており、全てが繋がっている。

こんな所だ。

にじGTAにみるゲーム内経済

 さて、にじサントス(作中都市)の経済について考えてみよう。サーバー設定にもよるが今回の経済はこんな形だ。

  1. ゲームから発行。
    白市民、ギャングの人々はマップ内アイテム・金を所持金や銀行強盗等のミッションをクリアする事でゲーム内で受け取る。アイテムを組み合わせてクラフトする事で価値あるアイテムを生み出す。
  2. ゲーム内流通。
    各々のプレイヤーは「サービス」を提供することで、お金を受け取る。そのお金はまたプレイヤー間でのやりとりとして循環する。警察はたっぷり稼いだギャングをとっちめる事で金が巡るし、医者は人を助けることで金が巡る。
  3. ゲームから焼却。
    にじGTA内で著しく高額なもの、例えば高級車や家やヘリコプターという物は人数やジョブの関係もあるとは思うが管理者(神)とそのサポートである三枝明那やドーラのみが行っている。ここで金が消えるとプレイヤーには還らない。よってゲーム内から金は失われる。

 これらを踏まえて印象的だったのは1、2、3、全てにシステムとプレイヤー両面からの調整があった事だ。というのも「ゲームからの発行」が少ないとギャング側が銃や弾を買えず、車も強化できない。強化先である車屋も儲からないし、ギャングが起こす犯罪がなければ警察も暇だ。
 死傷者も出なければ医者も暇。これに対してゲーム内で「犯罪での入手金額アップ」の調整が入った。それにより激しくなった戦いに各サービスでも値上げ・値下げ調整が入って経済の流動性がアップ。終了の差し迫った終盤では高額商品の値下げが行われ、プレイ内で「入手出来た!」と一つのエンディングが全てのプレイヤーに与えられた。

 これは長期間運営し続けることが目的のゲームであれば「コンテンツの焼却速度が早まってしまう」ことではあるが、僅か10日間に「今日も新しい事が出来た」を積み重ねるにじGTAならば非常に正しい運営だ。

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 更には「ギャング側への強化アイテム・武器提供を手掛けるチーム」が発足。やってる事は悪だがサーバ内では重要な「発行担当」であるギャングを更に加速させた訳だ。また、所謂NPC」の販売アイテムは値上げする事でプレイヤーの店舗が極力利用される事にすることでプレイヤー間の交流も更に加速していく。

システムが導く人々の交流

 にじGTAでは時間経過で水・空腹度・ストレスの値が蓄積されるようになっている。これにより「パン屋」「ピザ屋」「ラーメン屋」などライバーが経営する店をほぼ確実に利用する事となった。先に書いたNPCの販売アイテム値上げも相まって、ピザ屋には野菜スティックを求める人がやってくるしラーメン屋には店長のスマイルを求めて人々が足繁く通う。一人では出来ない仕事もチームでやればより儲かる。そのようにシステムが組まれた結果、人々は自然と集い、そして交流するようになった。

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 「ギャングVS警察」のパブリックイメージとしてのGTAメイン部分だけでなく

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 ゲーム内用語では「白市民」、犯罪に関わらない人々も「お店屋さん」としてにじサントスの物語に関わり続けた。もっと言えば銃を撃たずとも、彼ら彼女らはGTA5を楽しみ尽くしていたのだ。

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 中でも「様々なアルバイトをしまくっていた三枝明那」が夢追翔と2人でコンビニ強盗に及ぶのが素晴らしい。入念な準備と変装を駆使し、警察に全くバレず繰り返す中で二人がバディになっていく様は是非見ていただきたい。犯罪歴があるとなれない「救急隊」に三枝明那が最終的に入り、夢追翔を助けに駆けつける所まで是非。

ライバーという人々の群像劇

 それぞれの意図があり、それぞれが動き、打ち合わせ無しに即興でプレイしている。結果いわゆる「切り抜き」は特定のテーマに沿って作成され、「TRPGリプレイ」のような物語性が付与される。

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 にじGTAの中で最も有名なイベントである「26億円事件」についても「単にギャングと警察が撃ち合った」というだけの話ではない。話は白市民からギャングまで幅広く働くキャバクラにて警察署長のローレン・イロアスと副署長エクス・アルビオが変装の上で豪遊する所から始まる。このキャバクラも「白市民ではギャングほど稼げない」を解消しつつ、各ライバーへの「撮れ高」を提供していた。そこで初日から警察署員に「警察としての仕事」どころか「GTA5の遊び方」まで全て指導してきた二人が現れた。

 この「豪遊」も敢えて高額になりすぎる=今後に何らかのイベントが起きるようにやって、キャバ側も「ぼったくり」イベントが起きるように高額商品の金額はほぼ後出し。結果楽しく食い逃げとなった訳だがそこで「キャストがヘリに乗り込む」「発砲音が聞こえたので誘拐だ」と全員のアドリブが重なった結果、警察全員VS署長・副署長の逃走劇→署長・副署長がビルの屋上から転落し行方不明…から始まっている。

 即興劇は日を跨いで続き、残った警察署員達はキャバクラが真っ当な商売だったか、署長達に非はなかったかを改めて捜査。キャバクラの店長から手打ちも取り付けたものの、署長達はギャング「DROPS」を結成し「大型犯罪を起こす。俺達を捕まえてみろ!」と宣言し…という筋書きだ。

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 このDROPSには同じく「白市民」枠であるメカニックのイブラヒムも合流する訳だが、彼も彼で漠然と続けていたMec崖越えでメンバーを育て上げ短期目標としていた高級車を購入。もとより暇つぶしを兼ね出張修理を繰り返しては様々な人と交流してはいたもののいよいよ暇になったのでメンバーに崖越えを任せて旅に出た所…

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 DROPSの傭兵に出ていた麻薬カルテルエニグマ」のリーダー、葛葉らからの誘いに乗った、という背景がある。彼らはにじGTAで「リーダー格」の集まり。教え子達は果たして署長を取り戻せるのか?という話が、全て即興で構成されている。関わったライバー全員がアドリブであるからこそその戦いには熱が入る。 編集されたそれが「劇場版」と題されているのは誇張では無い。

 一歩引いた視点で見てみれば、与えられた役職(ロール)の中で2度対戦を行っただけに過ぎない。だがそれぞれが状況を利用して精一杯動き、たった10日間だったとしてもその時仲間で、教えてくれて、励ましてくれて…というその感情はだったろうか。嘘かどうかを問うのは少し意地の悪い問だ。なら「舞台の上で放った言葉は真実で無い」と言い切れるだろうか。

 

 にじさんじ所属の、
 アバターを身に纏った配信者達が、
 更にゲームの中でロールに基づき動いていたからと言って、
 それは「真実で無い」と言い切れるだろうか?

 

 にじGTAは幾度となく繰り返された問いへの本質的な答えであったとすら私は考えている。どうしようもなく彼らは、彼女らは、あの日にじサントスで生きていたのだから。

 つまりにじGTAは未だどこか「アバターを纏ってお話をしにきた僕たち私たち」から抜け出しきれない現代のメタバースではなく、間違いなく「メタバース」であった。これが数ヶ月経ってもまだ抜け出せない人々がいる理由の一つだろう。

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 あまり紹介しすぎるのも何だが、もう一つだけ書きたいものがある。それは救急隊の魁星とスハの話だ。

 魁星はにじGTA(6月半ば)の開催時、一番にじさんじに入ってから間もないライバーの一人だった。まだまだこれから繋がりを作っていく時期の彼は、にじGTAの中でも「初めまして」から入っていった。国境を越えた「初めまして」から始まる魁星とスハ。この二人が救急隊として活躍し、時に離脱してバイクを走らせながら語らい…と過ごしていく様もぜひ見ていただきたい。

 もし出てくるライバーを誰一人知らなくても安心して欲しい。なにせにじGTA内ですら、同じにじさんじ所属ですら「初めまして」で始まったドラマもあるのだ。それなら我々視聴者がライバーを知らなかったとしても、にじGTAを今から追ったとて何かしらの過不足はありはしない。

 俺とお前はにじさんじGTAをもっと目撃すべきだ。
 そして十日間だけ存在した永遠のメタバースを今こそ目に焼き付けるべきだ。
 私は心からそう思う。

 

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 最後に。

 「一人のメカニックが、キャバクラで働くピザ屋の看板娘に恋をした」というこの話も、絶品です。