CYBERPUNK 2077/また会おうナイトシティ。そこに夢がある限り。

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 サイバーパンク2077のプレイ時間は106時間。ようやく2周目が終わった。

 ゲームを購入してから一ヶ月以上、本当にこのゲームだけをプレイしていた。その家庭用機のバージョンがどうだの、バグがどうだの、返金がどうだのと世間は騒がしかったが私には何ら関係のない話だった。

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 好きなものを好きなように好きなだけ楽しむ為にマシンを組み上げたら、サイバーパンク2077は見事に答えたのだ。最初に言っておくが私はロード時間で待たされる事も、進行不可バグも、クラッシュも遭遇する事もなく100時間あまりの旅を終えている。散々「七色に光る」だの「家庭用機でいい」だのと言われ続けてきたゲーミングPCそのものが2020年代初期に最も「輝いた」と言っても過言では無い。

 だからこの記事に「バグがどうたら」「クラッシュがどうたら」というのは出てこない。ああそんなこと知ったことかよ。ローム*1も揃えない奴らがナイトシティでどういう目にあったかなんて私には関係ないからなあ!

 ああでも、一個だけ先に出しておく。電話の画面にずっとヒゲ生やしたキアヌ・リーブスが出てくるバグには遭遇した。誰に電話してもその相手にキアヌ・リーブスがめり込んでるの。面白いから勘弁してほしい。f:id:crs2:20210204010343j:plain

 さて、サイバーパンク2077の話を始めよう。当然の如くネタバレ配慮なんてクソ食らえだ。それが嫌ならさっさとRTXナンチャラ搭載PCでさっさと遊べ。サイバーパンク2077の骨子は控えめに言っても2016年水準であり、目の覚めるようなジェットコースターでは無い。しかし「空っぽでハッタリだけの街」にかつて中指を立てた全ての人に遊んで欲しい。

電話でタクシー呼んで来るの、待たなくていいから。

GUIDELINE/ナイトシティの歩き方

 正直な所、サイバーパンク2077について「何をどうするゲームなのか」の話が日本語で書かれたものはそんなに多くないと思っている。だからその話から始めよう。

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 サイバーパンク2077はRPGだ。舞台であるナイトシティをビーコンに導かれて駆け巡り、メインクエストやサイドクエストを進めていく。手触りで言えば「Falloutシリーズ」や「龍が如く」に近い。

 Fallout?じゃあ善悪とか派閥とかあるの?と聞かれれば、無い。沢山勢力や企業が出てくるんでしょ?勢力や企業に属して戦うとかそういうマルチエンドなの?と聞かれれば、無い。じゃあハウジングとかキャラのカスタマイズとか有るの?それも無い。コンパニオン連れて何かするの?違う。そうじゃない。

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 じゃあ何?グランド・セフト・オートなの?車のカスタマイズは?組織間抗争とか?それも違う。PVがどこまでも誤解を招いている。このゲームはギャングスタのゲームではない。じゃあ何なのか。順を追って説明しよう。

 

 

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 プレイヤーはノーマッド、ストリートキッド、コーポの3つからゲーム開始時の出自(ライフパス)と造形、そしてちょっとのパラメータ割り振りを行う。その後、自分のクラン(共同体)を抜けたり会社から切り捨てられたりしながら「街の便利な殺し屋」としてゲームをスタートさせる。画像はゲーム開始数秒でゲロを吐くへろへろサラリーマンのV。私の1周目のVだ。Vという名前は主人公名として完全に決まりきっている。変更はできない。

 その後は殺し屋及び盗賊として成り上がろうとして大企業のトップが泊まっているホテルに忍び込み、お宝をゲットしようとした所でトラブルが起き…という筋書き。ここまで読めば分かるだろうがプレイヤーの分身たるVは「なんやかんやあって街の殺し屋になったV」かつこの「トラブル」が物語の背骨だ。大きくメインストーリーがあり、その脇に膨大なサブクエストがある。

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 このメインストーリーを追いながら、舞い込んでくるサブクエストを潰し、更には通りがかったプチクエストも潰す。多くのオープンワールドの例にもれず、サイバーパンク2077はムゲンプチプチだ。遊ぶフィジェットキューブと言っても良い。 

 だが、その気泡全てに「物語」があったら?潰し方一つでほんの少しだけ結末が変わったら?潰すべき気泡全てに名前があり、並んでいたことにバックストーリーがあり、その一騒動が終わった後に少しだけ後日談があったら?もうそれは只の暇潰しではない。その通ってきた道全てがプレイヤーとVの旅の道筋になる。

 広大な街で車を転がしながら、膨大なクエストを発生させ、電話一本で殺しの依頼を受けては突っ走る。サイバーパンク2077はそういう殺し屋のゲームだ。

 

PERSONAL RESPONSIBILITY/決められた道をただ歩くよりも

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  結論から言えばこのPVのような事は実現していない。街中を空飛ぶ車が「カッ飛ぶ」ことは無いし、自分では乗れない。スペースシャトルの中で人が発火することはない。インゲームフッテージと書いてあるが正直「見たことのない風景」がいくらでもある。この後の2019年のトレーラーもそうだ。そもそもこんな「シネマティック」な光景はお目にかかれない。サイバーパンク2077は基本的に「FPS」であり、乗り物に乗ったときだけ「後方視点」に出来るだけだ。

 その上で「出来る」事は2つに分けられる。「どう選択するか」「どう殺すか」だ。

 どう選択するか。これは「はい、いいえ」だとかその次元ではない。本筋をさっさと進めたいなら会話の一番上にある黄色の選択肢を選んでおけばいい。そうでなく「筋肉バカなので武力で制圧しようとする」「技術屋なのでミッションで何をしようとしてるかパートナーと詳細を詰める」「コーポ出身なのでちょっとハイソな事もペラペラ喋る」などメインクエストでもサブクエストでも膨大な数が用意されている。

 

 

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  これはアウターワールドでも書いたことだが、「取れる選択肢が多い」というのはミッションのショートカットだけでなく「選択肢を積み重ねていくことでキャラクターの奥行きが増していく」という事である。「コーポのおじさんが間違って自撮りを送ってきたのでおちょくる」V、「一仕事の酒場で相手の話を聞きながらひたすらグラスを傾ける」V……即ち「ロールプレイ」がゲーム内から強力にサポートされている。

 これに「どう殺す」が交わっていく。「片っ端から相手をハックして倒す」「銃はハンドガンだけにして距離を詰めたら一気に刀でぶった切る」「筋肉バカなので軽機関銃とショットガンを振り回す」それら全てが決して弱くない。

 この弱くないというのが重要だ。本当に重要だ。ステルスばかり育てていて空から飛んでくるドラゴンにウワーっとされていてはつまらない。このゲームはそもそもプレイヤー側が結構なオーバーパワーに設定されているので戦おうと思えば幾らでも戦えるように出来ている。それでいて相手もあっというまに削ってくるので死ぬときは一瞬だ。

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 やろうと思えば一撃で34万点出る。通常戦闘でも全く問題なく戦える。「縛り」というよりは「多彩」に戦って遊べる。だからその戦いに集中することが出来る。会話でのロールプレイ。バトルでのロールプレイ。どちらも存分に楽しめるわけだ。

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 …だからこそ、日々の殺し合いの中で逝った友を思い出して電話をかける事もできる。もう誰が聞くこともないメッセージを吹き込みながら、涙を流すことも出来る。それこそがサイバーパンク2077が「ロールプレイングゲーム」たる最大の特長だと言って過言ではない。

OPEN COMBAT!/野良犬なりの戦い方について

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 さて、ロールプレイの部分を一度無視して、このゲームのシステムの話をする。

 サイバーパンク2077はオープンワールド型のRPGである。RPGということは成長がある。何を成長させるのかというとまず下記の5つのステータスを成長させる。

  • 肉体
    HPやスタミナや殴打武器、ショットガンや軽機関銃に関係するパラメータ。
  • 反応
    肉体に割り振られている以外の銃はこちらの関連。クリティカル率や速度に関係するパラメータ。あとみんな大好きブレード武器もこっち。
  • 技術
    クラフトや爆発物関係。加えてチャージ武器である「テック」カテゴリも強化。
  • 知識
    スーパーハカーとして無双するためのパラメータ。
  • 意思
    サイバーニンジャするためのパラメータ。

 これらをレベルアップの度に1ずつ割り振っていく。銃にも衣類にもサイバーウェアにも全て「肉体レベル6以上で装備可能」のようにレベル要求が設定されているため、最初から強い状態には出来ないし最終的に何でも出来るようになるわけではない。また、一応このゲームはレベル50が上限に設定されているので全てのパラメータを上げきる事は出来ない。よって「筋肉バカで銃は何でも使えるがハックもクラフトもからっきし」だとか「反応と意思でサイバーニンジャする代わりに軽機関銃が持てない」のような取捨選択がプレイヤーには要求される。

 また、各種行動は経験値入手によるレベルアップだけでなく行動すればするほどスキルアップ」という形で成長する。平たく言えばリボルバーで倒せばハンドガンが強くなり、敵をハッキングすればクイックハックが強くなると言った次第だ。これらは結構ポンポン上がるし、スキルアップの度に後述のパークポイントが貰える。 

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 パークは先に挙げた5つのパラメータの下に位置するもので、レベルアップやスキルアップの度にポイントを獲得しては特定のパークに割り振って成長させる。ここで更に細かな部分の成長があり、「ステルス攻撃のダメージ+50%」「テック武器が相手の防具を無視する」等の能力を割り振っていく。

 

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  …ま、要するにコレだ。ただコレだと言うとつまらなさそうに聞こえるかもしれないが、個人的にはFalloutシリーズと同じように「何かに特化したプレイ」を複数回楽しめたのが凄く良かった。「縛り」でなく「特化」というのが非常に良い

 

 

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  戦闘もただドンパチするだけではない。プレイヤーは目に埋め込んだサイバーウェアを使い常にスキャニングを行う。この間、ゲーム内の時間の流れは非常に遅くなり「何処に敵がいて」「どこに爆発物があって」「どの敵から片付けなければならないか」を把握・整理する事ができる。先に挙げたFalloutシリーズではV.A.T.S.という形で時間停止及び攻撃予約が出来たわけだが、こちらも似たように「一旦落ち着く」事がゲーム側からサポートされている。ポーズボタンを押すのでなく、だ。

 そしてスキャナーを起動し相手を選択して出来るのが「銃」「近接攻撃」に並ぶ第3の攻撃「クイックハック」である。

 監視カメラを発見、相手のネットワークに接続!ブリーチプロトコル開始!敵I.C.E.を突破、強制自爆デーモンをアップロード!何も分からないまま自らグレネードを起爆し仲間もろとも吹き飛ぶギャング!!ナムサン!!

 ……というプレイが可能。マトリック某や何殻機動隊やその他もろもろを思い出した貴方、おめでとう。サイバーパンク2077ではプレイヤーこそが「超ウィザード級ハッカーだ。

 ウィザード(魔法使い)という言葉に引っ掛けるわけでも無いのだが、サイバーパンク2077の戦闘システムの中でハックは正に「魔法」と同じ位置と言ってもいい。銃や近接攻撃で「こうげき」をし、その中で「まほう」を使う。相手に大ダメージを与えたりデバフを与えて削っていって倒す。Fallout3を初めて遊んだ時以来の「RPG文法の再現」の手触りに私は大喜びしてしまった。

 当然、この手のハックが通用しすぎてもいけないのでプレイヤーの成長度合いや装備によって相手に通じる通じないが分かれる。他の攻撃も同様で、相手が相対的に強すぎる場合は殆ど歯が立たないと言ってもいい。倒せない敵をいつか倒すことを目標に装備を整えるのもまたRPGの醍醐味である。大丈夫。明らかにアラサカのヤベーやつがいそうな所行かなければしなないから。

 戦い方は多岐に渡る。ハンドガン+ブレードで加速装置を駆使して戦っても良い。ステルスなんかクソ喰らえとラン&ガンしてもいい。サブマシンガンアサルトライフルCoDしてもいい。その場で無限にナイフを生成して投げまくっても良い。ナノワイヤーで一気に範囲攻撃で相手の首を全部ぶっ飛ばしても良い。バーサーカーモードに突入し片っ端から相手の頭をハンマーでぶっ飛ばしても良い。このゲームは基本的にプレイヤーがオーバーパワーになるように出来ている。好きに無双しろ。好きに無双していいようにきちんとこのゲームは出来ている。

 ただ、「クラフト」や「消耗品」に関しては目を潰れない欠点がある。このゲームは「成長」以外に装備品の「強化」があるのだが、「クラフト」に関する割り振りを行わないと最上位の装備品の強化や再入手が出来ない。しかしクラフトした武器を十全に使うためには使いたい武器に応じた別ステータスへの割り振りが要る。これは別にトレードオフの面白みだとか選択とかでなく単に「失敗」だ。別にそれをしなくてもクリアは全く問題ない。しかし、これさえ無ければクラフトに振らなかった分もっと特化して遊べたはずである。NPCや施設などでクラフトを外注出来たなら幾分かこれも軽減されたろうに。

 というのも「低レア装備を落とす敵」もクラフトがあるなら数をかき集めて上位素材変換できるはずなのだが、それがクラフトに振っていない場合変換すらままならないのである。渋々売却して、高い金を払って偶に売っている素材を買うことになる。つまりクラフトに振っていないがために単純に「ゲーム内での試行回数が減る」事を意味する。…そのうち面倒になって、敵から何も奪わなくなるプレイヤーもいるだろう。本当にもったいない。

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 さて戦い方の次はどこで戦うかだ。

 車で走り回っていれば嫌でもギャングを見かけるし、フィクサー(仲介者)からクエストの電話がかかってくるし、警察からは血なまぐさい暴力事件解決の協力依頼が飛んでくる。敵とは固定エンカウント方式だがその場所が膨大に設定してあり過ぎてあたかもランダムエンカウントだと勘違いしそうな程だ。

 サイバーパンク2077は「世界に影響を与えている」と錯覚させる為、本当に膨大な数の「殺さなきゃいけない相手」を用意している。そもそも主人公であるV自体が紆余曲折あってナイトシティに来ており、最初のミッションも偉いところのお嬢さんを誘拐したギャングをブチのめす所からスタートなのだから悪そうな奴らを殺すのは当然だ。

 じゃあそのクエストマーカーに従わず歩いている時の探索に意味がないかと言われればそれも違い、路地裏や何かしらの施設や屋上には大体ゴロつきが陣取っているので殴り込めば良い。そしてなんかこう、強そうなやつをシバいたら良いものが出る。コンテナも敵の装備も全部ごっそり戴く。少なくともスチーマートランクでガチャるよりよっぽど精神衛生上良い。

 ギャング同士の抗争も発生し警察を交えての三つ巴四つ巴の戦いもしょっちゅうだし、誤って警察を撃とうものなら次は警察にこちらが追われる身だ。ちょっとだけ誰に銃口を向けたかを確認しつつ戦えば、報酬と戦利品と各種経験値が手に入り緩やかな変化が連続して訪れる…という訳。

 そうそう、探索と言えばこのゲームは所謂「レア装備」が固定位置にあったりミッションのついでに手に入るようになっている。完全にランダムにまかせてなんか強い武器拾って!というよりはシナリオの進行や探索そのものでの入手もあるので、攻略情報を見ないなら「思いがけない宝を拾った」となるし攻略を見るなら「今回は最短でコレを拾って…」とプランを立てられるようになっている。どちらにもちゃんと機能するように作ってあるから安心してブラついたり攻略ページ見て遊んで欲しい。

 ところでこのゲームには「善悪」とか「派閥」といったお話は無い。殺したから出来なくなる事とか、そういう事はあんまりない。クエスト内で訪れる結末が大きく変わるときは事前に黄色の選択肢が示してくるし、殺すにしても割と決定的な瞬間であることを明示してくる。縄張り争いとか殺しすぎたから特定の地区で物が買えないとかは無い。なので見かけた悪いやつは何であれ皆殺しにして良い。コレについては各々思うところもあろうが、「気に入られるために殺す殺さないを考えないといけない事が無い」ので私は良かったと思う。

 

 

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 そう、そもそもこの世界は「変わらない」のだ。数多の戦争を経て手に入れた「平穏」の中で暴れ散らす有象無象が居ようが、軍用サイバーウェアで武装した輩がいようが、そいつらが道端でドンパチしようが、何も変わらない。既に強固なシステムが「企業」により完成し、街には消費を煽る広告が溢れ、裕福な人は裕福なりに暮らし、ホームレスが徒党を組んだノーマッドノーマッドなりに暮らし、ゴロつきであるストリートキッドはストリートキッドなりに暮らしている。電話にはひっきりなしに殺しの依頼が殺到するが、誰かを殺したところでまた誰かが後釜に座る。

 サイバーパンク2077はそんな世界で人殺しとコソ泥を仕事にしていたチンケな人物が成り上がりの夢を抱き、ダチ公とホテルに乗り込んでどデカく花火を打ち上げようとしてダチ公を失い、それでもと足掻く数週間の物語だ。だから最後の瞬間まで物語は大きく動かない。何をしたってテレビのニュースでちょっと流れるだけ。毎度人を良いように使うフィクサーにはまあお褒めの言葉を頂戴するが、本当にそれだけだ。

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 今思えば「事前の広告」ですら、「この街はすげえんだ」と夢を見ていたダチ公と同じだった。ナイトシティにはレジェンドが居て、すげえ街があって、俺なら私ならなんだって出来ると思っていた。

 俺たちならメジャーリーグでバッターボックスに立って、眩い照明と歓声の中で一発ぶっ放せると思っていたんだ。

 

REMINISCENCE/追想のゲーム

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 ジャッキー・ウェルズという男の話をしよう。このキャラクターは生い立ち(ライフパス)に関わらず、主人公の友人として登場する。コーポ務めなら昔からの友人として。ノーマッドなら根無し草の主人公の初の依頼人として。ストリートキッドなら数年ぶりに街に帰ってきた主人公の窃盗中に鉢合わせ、警察に一緒にボコボコにされた馬鹿二人の片割れとして。

 ジャッキーはプロローグが終わってからもずっと一緒だ。彼女とのデートの為に車を貸してやったり、一緒にメシを食ったり、一緒に鉄火場に飛び込んだりする。主人公達の友人のリパードク(サイバーウェアの交換をしてくれる医師兼技師)、ヴィクターの所で店をやってるミスティって子が彼のガールフレンドだ。

 ジャッキーは大仕事をやるって意気込んでどこか浮ついてても、ジャッキーのお母さんが心配で電話をかけてくる。大丈夫だって。昔はギャングやってたけど今は足だって洗ったし大丈夫だって。まあそんな感じのいいやつだ。大企業のお偉いさんのすごいブツを盗み出すミッションの最中だってジョークを忘れなかった。

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 画像は似合いもしない大企業の服を着て鏡の前でニヤニヤする主人公
 (無論、容姿は変更可能)

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 そのジャッキーは、ゲームの第一部で死ぬ。ホテルの最上階から命からがら逃げ出し、タクシーに乗り込んでどうにかなると思った矢先に、ジャッキーは死ぬ。これは発売前からシネマティックトレーラーの形でずっと前から言われてた事だ。ここでサイバーパンク2077は最期にかける言葉を選ばせてくる。俺であり、Vが発したのはこうだった。

「ジャッキー、またメジャーで会おうぜ」

 企業のブツを盗もうなんて持ちかけてきたフィクサーの男は街中が大騒ぎになった事をがなりたててくるが、そんな事は最早知ったことじゃない。こっちはダチ公を失ったんだ。にも関わらず「血で汚れてるから顔を洗ってこい」などと言ってくる。

 

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 さあ、どうする。ダチ公の血で汚れた顔を洗うか。それとも。

 [顔を洗う]
 [鏡を割る]

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 自分の意志で引き金を引き、自分の意志で歩いてきた。
 おとなしく顔を洗うか、鏡を割るか。
 ここからサイバーパンク2077の第二部がスタートする。

 

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 さて、その第二部。ジャッキーの遺体を彼の母親にきちんと届けることが出来たなら…彼の葬式を行うことが出来る。そこにはジャッキーにゆかりのあった人物が勢揃いだ。彼の母親も、共通の友人だったヴィクも、主人公の知らない人々も、みんなジャッキーの歩いてきた道のりで関わってきた人たちだ。

 彼らは様々な思い出を話す。その中で特に印象に残ったのはヴィクのこの言葉だ。

 「あの12ラウンドは忘れられない」

 

 サイバーパンク2077は膨大なテキスト量で、プレイヤーに様々な「かつてあったことと今」を語りかけてくる。ジャッキーが本当にバイクが好きだったこと。彼がヴィクとボクシングで試合をしていた事。サイバーサイコシス*2と思われた人が本当は助けを求めていたこと。屋上で今しがた殺した相手がちょっとした好奇心でアンテナをハッキングしようとしていたクソガキでしかなかった事。ギャング同士の煽りあいのメール。凄いAIを作った結果どんどん福利厚生が貧相になり従業員が全員クビになったタクシー会社。お固そうな武人が貧民街でチキンを店の人に配っていること。大企業に裏切られた幹部のおじさんがスマホの使い方も分からず、検索ワードを主人公にメールしてきちゃう等。

 メインクエストにも、膨大なサブクエストにも、ちょっとした電話にも、路地裏に今しがた転がした死体にも、全てに物語がある。ナイトシティは決して「虚飾の街」でも「空っぽの街」でも無い。

 

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 ジャッキーの遺したバイクをふと道端に停め、もう出ることのない彼の番号に電話をかける。主人公は泣きながらメッセージを残す。雨の街に吐き出した言葉は誰にも届かない。…サイバーパンク2077はそうやって、何よりも雄弁に人々を描いていく。そしてその主人公の言葉や振る舞い一つ一つをプレイヤーに選択させ、プレイヤーとVが少しずつ一つになっていく。

 

CHIPPIN' IN/銀腕の男

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 サイバーパンク2077で事前から宣伝されまくってきた要素の一つとして「キアヌ・リーブスが出てくる」というものがある。彼が何なのかの話をしよう。

 ジャッキーの死と引き換えに手に入れた”企業のブツ”――Rericと呼称される激ヤバな記録媒体――の中に入っていたのは、作中から50年前に活躍したロッカーボーイにしてテロリストの「ジョニー・シルヴァーハンド」の人格のコピーだった。しかもそれを自らのサイバーウェアに差し込んだが最後、徐々に主人公の脳はジョニーに乗っ取られていく。それだけでなく身体は著しく衰弱し、何もしなくても数週間のうちに死に至る事になる。

 

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 で、何が問題かっていうとこのジョニー・シルヴァーハンド。うるせえ。徐々に一体化しつつある、というか主人公は擬似的な二重人格状態となりこのジョニーの幻影がそこかしこに現れては皮肉を言ってきたり、ジョークを言ってきたりする。ストーリーの上で言えばジョニーはジャッキーの代わりに現れた新たな相棒役とも言える。主人公にしか見えない幻影だが、言われっぱなしでは無くずっとずっと会話し続ける相棒だ。

 第二部のストーリーは「大企業アラサカでこの人格コピーについて研究していた博士を探せ」「アラサカのおえらいさんに話をつけろ」「そもそもReric強奪計画とは何だったのか」の3本立てで進んでいく。主軸としては、実はジョニーは関係ない。関係ないのだ。あるのは「俺のこの頭ン中の誰かをどうにかしなきゃ」と使えるツテは全部使って走り回ってはのたうち回る弱々しい殺し屋のちょっとした冒険だけ。

 だが、サブクエストを巡ったり、彼と会話したり、それこそ彼にあった過去を追体験していく中でプレイヤーと主人公は彼を理解していくだろう。かつての戦争であった悲劇。恋人であるオルト・カニンガムがアラサカに誘拐され、そして助けられなかったこと。そこから反企業・反体制思想を更に強め、第二次救出作戦でも助けきれずに死んだこと。皮肉屋で激情家であってもジョークとちょっとのお茶目を忘れない、一人の人間であることを。

 彼を理解したからなのか、彼との融合が進んでいるからなのか、それは分からない。だがこの奇妙な共同生活は少しずつ街に小さな燻りを残していく。50年前のバンドメンバーとの一日限りの復活ライブをするために走り回ったり、50年前の作戦のメンバーとの一日限りのデートをするために走り回ったり、主人公にとっては本当に散々で、それでも楽しい日々がつながっていく。そこにあるのは「あの50年前で時を止め、前へ進めなくなった人々が歩き出す瞬間」ばかりだ。

 サイバーパンク2077が素晴らしいのは、ここだ。
何をしても別にニュースにもならず、変わらない世界の中でそれでも少しずつ変わっていくものが確かにある。殺し屋でこそ泥の主人公が走ったからこそ、繋がったものが確かにある。あくまでサイドクエストに過ぎない「過去の因縁を巡る話」の最後、ジョニーの墓の前でジョニーはこう言った。

入ったのがお前の頭の中で、良かった。

 

 サイバーパンク2077がオープンワールドである必要はここにあった。文字通り街中を走り回り、様々な物を見て、自分で選んできたからこそ、その物語は終わりを迎えることが出来る。最短10時間で遊べたけど短かった?冗談じゃない。ビーコンに導かれてパパっと終わらせただけでこのゲームを語れるものか。

 

 

 NEVER FADE AWAY/ほんとうにうつくしいもの

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 アラサカのお偉い方にすがりつき、ジョニーに小言を言われようが無視し、脳に巣食うチップを取り外した。世界の色彩は狂い、簡単なパズルを解くことも出来ない。そこで主人公に言い渡されたのは「デジタルゴーストとして人格を保存しそれが復元できる時を待つか、短い余生をまた街で生きるか」の2つ。生き延びられるならとデジタルゴーストになる契約書にサインをし、その手術室へ向かう時――このゲームは選択を迫る。

 いいや、選択はもう終わっている。
 だからその手術室へのドアに表示される選択肢は一つだけだ。

 >アラサカに魂を売る

 

 私の一周目のVは、こうやって消えていった。手術室に入ると、カメラは最早一人称視点ですら無くなった。もう、Vと私は一つではない。これから確かに彼は死ぬのだから。

 ドアの前に立つまで、私は何を選んだのか分かっていなかった。魂を売るのだと突きつけられるまで、私は自分が選んだ道の意味すら分かっていなかったのだ。

 

 だから、二週目の選択肢は間違えなかった。
アラサカタワーに正面から乗り込み、50年前からの因縁にケリを付けた。ジョニーはオルトと共に、ネットワークの果てへと旅立っていった。ジョニーと自分を切り離したとは言え、一度脳天をブチ抜かれた身。残り短い命なのは分かっている。だからVは次は宇宙でまた大博打をしかける。次の大仕事は宇宙ステーションが舞台だ。眼下に地球を望みながらVは前を見据え、飛び立っていった。

 

 サイバーパンク2077に、最高にハッピーなエンドはない。アラサカに魂を売り渡すか、ジョニーの代わりに自分が死ぬか、短い余命を惚れた女と過ごすために使うか、それともナイトシティの伝説となるための大博打につかうか。この4つだけだ。私は、それでいいと思う。人殺しとコソ泥が仕事の主人公が、何かを繋げられただけでも本望だ。それがきっと夢の街、ナイトシティが観せた消え失せない夢だろうから。

 長期化した開発の中で取りこぼしたものは沢山あったろう。ほとんど一度ずつしか出てこない各陣営は「派閥」だとか「コンパニオン」の名残だろうし、バトル周りは一見回っているように見えるが一部の武器の種類が少なかったりする。「暮らし」と言っておきながらハウジングは無いし、飲食物こそあれどサバイバル要素は無い。今となっては若干陳腐な「ルートシューター」要素も、「クラフト」要素もきっと別の使いみちがあったのだろう。人によっては20時間も遊べば、恐らくゲームの底を叩く感触を覚えるはずだ。

 だから改めて言うが、サイバーパンク2077は、別に「全く新しい」「壮大な」「自由度のある」「画期的な」ゲームではない。オープンワールドとしても、RPGとしてもだ。しかし、「圧倒的な密度のロケーション」「膨大なテキスト」「優れたストーリーテリング」でもって、ある種懐かしさすら覚えるほどの「ずっとやってみたかったゲーム」だと断言する。こんなにずっと面白かったのは、それこそFallout3以来だった。

 

youtu.be

 1998年になってもパトレイバーは出来ず、2003年になっても鉄腕アトムは出来ず、来年にソードアート・オンラインは遊べそうになく、数年後に笑い男事件なんてのも起きそうにない。今となってはサイバーパンク自体も、有る種の「レトロフューチャー」の側面を帯びようとしている。開発の長期化も相まって、サイバーパンク2077は正に「伝統的な傑作」として記憶されていくことだろう。

 サイバーパンク2077はまだ人が完全にデジタル化出来ず、人として生きるために人たる身体を少しずつ機械に置き換えながら生き延びる時代の人々の美しい物語である。

 

 

【PS4】サイバーパンク2077

【PS4】サイバーパンク2077

  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: Video Game
 

 

www.gog.com

 

 なあ、ヴィク。俺が死んだら何を忘れらんねえって言ってくれるのかな。

 俺は死ぬ気は無いけど、誰かが覚えてくれてたら嬉しく思うよ。

*1:体組織に埋め込んだり体組織そのものを入れ替える人工臓器を指す作中の俗語。

*2:サイバーウェアの付け過ぎで狂人となってしまった人、という作中の造語