FPSで「俺の許可無く死ぬな!」って何度も言った友達が芋焼酎遺して逝った話。

 そいつは、トルティーヤでワカモーレな、ダイナマイト九州男児だった。

 私は2000年代後半を大学生活とXbox360のネット対戦に費やした。コールオブデューティは2のアジア版を秋葉原から取り寄せたし、バトルフィールドだってモダンコンバットから遊んでいた。大ヒットとなったCoD4では対戦を通じて仲良くなった人々とチームを組んで毎晩遊び、Xbox360Twitter対応を機に始めたTwitterでもどんどん仲間を増やしていった。

 当時、Discordはまだなく、通話は専らSkypeXbox360のグループチャット機能を用いていた。Skypeの集団通話機能を駆使し、一時期30人程度だれかがずっとオンラインになっている通称「大部屋」が作られた。見ず知らずの人でもSNSでなると*1を飛ばしあい、ゲームで銃口を向け合えば友達だった。

 2010年、コールオブデューティブラックオプスが発売される。私はボイスチャットをしながら遊ぶ楽しさと、お互いにゲームについての理解を深め合いながらオブジェクティブ*2を遊ぶ楽しさを日々広めるべく「BOカエル隊」という活動をしていた。BOはブラックオプスの頭文字。カエルは私がSNSで使っていたアイコンと、そのアイコンからついたニックネームに由来する。

 毎晩SNSで「やるぞ」と声をかければ、様々な人が参戦してくる。最初に声をかけた人とつながりが無くとも、誰かが「こいつにスパゲティを食わしてやりたいんですがかまいませんね!!」と連れてくれば、もうそれで遊び友達だった。

 そんな感じで出会ったのがダイナマイト九州男児エル・フォルテP。
 通称「ふぉるぴー」である。

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 名前は格闘ゲームストリートファイター4』のキャラ「エル・フォルテ」に由来する。それでアイマスPの一人だったからエル・フォルテP。後に何か罰ゲームで負けただか何かで名前が「腋男爵」になってた。なんなんだあいつ。

 

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 どういう奴だったのかについては、まあ当時のトゥギャッターでも参考にしろ。

 

 で、ふぉるぴーはとにかく格闘ゲームのオタクだったのでコールオブデューティが下手だった。ゲームが下手というよりはとにかく走り回ってその後の反射神経で倒そうとするが索敵だとか接敵後に敵を捌けない。「どうしたらいいのかなあ」「死んじまうなあ!」と遊べば遊ぶほど凹んでいく。「BOカエル隊」を主催している私としては放っておけない。

 だから、彼の練習に付き合った。とにかく、格ゲーに例えた。私も下手の横好きながら、格ゲーは遊んでないわけじゃなかった。「角待ちとか待ちってのは、つまりガイルなんだ」「このゲームにブロッキングは無いんだ」「とは言え相手もガードは無いんだ」「精密に狙えなくていい。FPSよりよっぽど過酷な所で戦ってきたんだからここぞと言う所で雑に撃つ方を優先させればいい」「FPSはぶっぱでいいんだ」…… 彼のFPSの腕はメキメキ上昇した。と言っても神エイムってわけじゃない。元から格闘ゲームを遊び抜いていたからこそ、彼の「読み」の才能は圧倒的ですらあった。

 

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 鍵は「飛び道具」だった。アバネロダッシュの如く敵との間合いを調整し、各手榴弾で相手を動けなくさせ、仕留める。そして彼が1デスに付き2発撃てる波動拳として極めたのが「RPG」だった。爆発物は範囲攻撃である。そして地面や壁、天井に当たれば直撃じゃなくとも即死が見込める。足音を聞いて走り込んでくる敵にドン、窓から狙っている相手の天井にドン、なんなら撃ち合いが始まったら自爆しつつ道連れにドン。通称、RPGおじさんの誕生である。

 

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  北海道-九州間でゲームの貸し借りをしたり、毎日のようにSkypeで話したり、ふぉるぴーとは友達になった。彼をはじめとする人々がプレイしていたからこそ、私もPSO2を始め何百時間とプレイした。

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 当時のチーム、「Xenon Licht」のメンバー。

 

 

 さて、そんなゲーム生活にも人生長くやってれば変化が訪れる。私は北海道から上京して環境が一変したし、ふぉるぴーもふぉるぴーでいろいろ仕事が忙しくなった。そもそも学生たちが中心だったコミュニティも時間が経って社会人が多くなった。PSO2へのログイン頻度は減り、FPSも新ハードの買う買わないPCで良い良くない等で集まらなくなった。Skype大部屋自体も機能しなくなり、私はいつのまにかメンバーから消えていた。

 それでもTwitterでは交流があったし、またいつもどおり遊べるだろうと思っていた。そんな矢先、そのふぉるぴーの姉から訃報が届いた。「ふぉるぴーが帰らぬ人になった」と。

 

 私はいつも冗談めかして言っていたんだ。「俺の許可なく死ぬな!」って。FPSは無限にリスポーン(復活)が出来るが、死んだら死んだでそこから形勢が逆転する。バトルフィールドのように前線を形成する作品ならなおさらだ。私がくたばったふぉるぴーをショックパドル(蘇生アイテム)やムーンアトマイザー(これはPSO2の蘇生アイテム)で起こした回数は数え切れない。ゲームの中なら笑って済ませられるが、現実で死なれると蘇生なんて出来やしない。そして何より、笑えない。

 彼とは「会おう」「会おう」と何度も連絡を取っていた。私も上京したし、彼が九州から遊びに来た時に是非顔を合わせて、酒を飲んでみたり出来たらと思っていた。何年もゲームで遊んだり通話した仲だが、結局私はふぉるぴーと一度も顔を合わせることが出来なかった。

 顔を合わせた事もない人を友達と言うのは変だろうか。本名じゃなくハンドルネームで呼びあった時間が何千時間とあっても、それは友達じゃないんだろうか。現実では会ったこともない人の死に衝撃を受け、涙を流すのはおかしい事なんだろうか。私はそうは思わない。ふぉるぴーは私の友達だった。

 

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 一つ、北海道から東京に来る時に持ってきた物がある。いつかふぉるぴーが「誕生日プレゼントを贈りました。一緒に飲みましょう」と送ってくれた芋焼酎だ。なんてことはない芋焼酎だが、形見になってしまった。一緒に飲む日を楽しみにしていたのに、飲める日はもう絶対に来ない酒になってしまったのだ。

 

 彼が逝って、もうすぐ5年になる。
 向こうでも元気でやってんのかな。ストリートファイターは5も出たんだぞ。今度またプレイステーションXboxの新しい奴が出るんだって。PSO2は俺ももうやってないけど、レベルが95まで上がるようになったんだってさ。いろいろ話したいことがあるよ。また一緒にゲームやろうなって言ったのにさ、本当に俺の許可無く死ぬ奴がいるかよ。

 なあ、ふぉるぴー。お前、本当に良いやつだったよな。

*1:Reply、ユーザー宛投稿の事。アットマークが食べ物のなるとに見えることから

*2:地点を争奪したり相手チームの復活ポイント真っ只中にある旗を持ち帰ったりするルール。ただ倒し合うチームデスマッチよりも連携が必要となる