2023年10月現在、ハロウィン合わせでアーカムシリーズが激安になっている。アーカムシリーズは人気IP『バットマン』のオープンワールドアクションゲームシリーズで、今まで4作品がリリースされている。
そのうち初代であるアサイラム、続編であるシティについては10年近く前に既に記事にした。今回書くのはシリーズ最終作、アーカムナイトについてだ。
今となっては埃を被った事情だが、アーカムナイトは所謂マルチプラットフォーム作品にも関わらず特定プラットフォームにしか日本語が当初入っていなかった。(国内Xbox版発売中止)加えてPCでも最適化不足が祟り、酷く動作が重い。どのぐらい重いかと言うと、2019年の最強クラス環境である3950X+2080TiにてWQHD環境でプレイしても60fps張り付きに至らないぐらい重いのだ。発売当初FHDでもガクガクであり、そもそもターゲットプラットフォームであろうPS4版も30fps張り付き動作出来ないほど重いのだから…と相当寝かせておいたのだがそろそろやり時だろうと思い今回のクリアに至った。
アーカムシリーズで一度オープンワールド作品は極まり切っており、生半可な事をすれば2015年のゲームに劣る体験しか提供できない。というのが、やり終えての印象だ。
あとから振り返る、というのもアンフェアな話では有るのだが、オープンワールドはいずれバットモービルに辿り着く他に無かったんじゃなかろうか。カーチェイスはニード・フォー・スピード モスト・ウォンテッド(2005)の環境利用で看板を落とすとかガソリンスタンド爆破等で既に極まっており、そこにテイクダウンの要素を入れたバーンアウトパラダイスでクラッシュの類も極まり切ってしまった。そこに自動運転+火器で「追手を排除する」というのをやっても能動的に物事を引き起こすのでなく単に追われてるからのイベント戦闘でしか無い。「車両に武器を付けた」として、そこに高速移動が絡むならカメラと指が足りない。正しく縦横無尽に動ける上、トリガーを離せば即巡航モードになれるバットモービルはオープンワールドゲームにおけるマスターピースと言って良い。
また、本作の2年前に出たGTA5に限らず、オープンワールドゲームというのは「リアル」の方面であろうがなかろうが、悪癖として「乗り物の調達が面倒」「乗り物の種類が沢山あったとしてだから何」をずっと抱えている。呼び出し機能があったり奪えば良かったりとまあ回避策はあるが、とにかくゲームプレイのリニアな進行を妨げる。バットモービルはこの点「何処からともなく即時に現れ」「自動で乗り込み」「巡航中のバットモービルから射出して超高く跳ぶ」「そしてこいつを強化していく」と全て解決している。金を溜めてパーツ付けるとかそういうのもない。なんならジェット噴射で急加速も出来る。およそアクションゲームにおける「車両」に要求されるものをこいつは叶えてしまった。
リリース当時は徒手空拳無双アクションの中に入った異物としてまあまあ叩かれて居たし、事実なんだかしっくり来なくて当時プレイを中断した理由でもある。しかし振り返ってみれば、もうバットモービルをやるぐらいしか伸びる余地は無かったのではないかと思う。
徒手空拳無双アクション部分だが、ここはアーカムシティで既に極まり切っている所に僅かに追加調整に入ったに過ぎない。とにかく殴りを連打して、相手の予兆が見えたらカウンター。各タイプに合わせてスタンやジャンプを織り交ぜ、時々ガジェットで時間稼ぎをしたり電撃属性や武器を引きはがす。これは本当に楽しいものだし、20名以上の敵をロケットランチャーの類も用いず瞬時に倒すのは唯一無二だ。ここから更に伸ばすには「打ち上げ」とか「周囲オブジェクトのもっと積極的な利用」とか「超必殺技」の方向になるわけで、事実徒手空拳無双アクション路線をマーベルスパイダーマンが継ぐ時は上記が織り込まれた。しかし「打ち上げてどうのこうの」というのはつまりそれほど耐久力を増して都度のバトルを重くする事に他ならないわけで、蹴散らすとか無双するという重みの付け方であればやはりここが限界点であろう。
また、ステルスアクションの部分も仕上がっており「敵の位置を把握する」「適切なガジェットを用いたり、大胆に音を立てて敵を分断し、各個撃破」は上述の徒手空拳無双や戦車バトルとはまた別の3つ目のバトルとして良く出来ている。キチキチにシビアにするのでなく、「敵を翻弄し恐怖に陥れるバットマン」のロールプレイ用に出来ている。
ここに各種ガジェットを用いたパズル・探偵パートも合わせ、アーカムナイト内のアクティビティ(ミッション)数は膨大だ。用意されたバットマン要素も膨大なら、それらを活用するアクティビティも膨大。そしてメインクエストを一区切りする度、キャラクター達は「どこそこで◯◯が起きたみたいだ。行ってくれ」とサブクエストへ誘導してくれる。
過去に龍が如く0の記事でも書いたが、物語がリニアになればなるほど「そんな事してる暇があるかよ!」となっていくがアーカムナイトは寧ろサブに逸れることをゲーム側で誘導し、所謂クエストマーカーもその時点でわざわざ外れるようになっている。ここがキモで、「スケアクロウを捕まえろ」というメインクエストすら1人のヴィランについての話でしか無く、全てのサブクエストが並列して走っているという仕組みが白眉だ。道端でポロっと聞いた話から何やらビーコンが出たな、でなく悪役の名が出て大事件が既に起こっている最中だからこそ出来る手法であり、ダイアログ・カットシーンと読み物でじっくり進めていくスタイルではこうはいかない。
しかし、これにも弱点はある。フィールドに出てくるありとあらゆるアクティビティは「スーツ提供のトレーニング」以外「悪者が何かやったのでシバく」に一本化されてしまうのである。もうマップ上のもの全部余計なことする奴の仕業。故に「ヴィラン◯◯編」に興味が湧かない場合、全てスルーされてしまうのだ。
また、シリーズ最終作である所を除いてもアーカムシリーズは「以前シバいたヴィランが収容されているアーカム精神病院がジョーカーに占拠された!」から始まった。特に映像作品でヒーローもヴィランも描き、更に因縁もしっかり描くようになってきた昨今、アーカムシリーズだけで見ると作品オリジナルバースで描く割にヴィランの描き方も因縁も既存IP頼りで足りていない。
つまり、サブクエストをやる理由が「Be The Batman」一本槍になってしまっている。クエストのバリエーションもキャラも足りているのだが、それをやる理由作りが一手だけ足りていないのだ。マーベルスパイダーマンの場合、同じく作品内オリジナルバースでのピーターパーカーのオリジンに加えラフトに収監されているヴィランとの戦いがあったことをサブクエスト内で描いている。アーカムナイトはそこが惜しい。
だが、だがだ。「無数のやること」は「バットマンになること」と全て繋がっている。バットマンなら倒す。バットマンなら救う。アーカムシリーズをわざわざ遊んでいて単にメインクエストをやりたいだけな事があるだろうか。いや、無い。そんな感じで、アーカムナイトは出来上がっている。
そしてもう一つかなりの出来上がりを見せている要素として「どこでもジョーカー」が挙げられる。アーカムシリーズのバットマンはジョーカーの血を入れられた上、ジョーカーの血が輸血されるとジョーカーになってしまう非常に厄介なジョーカーだ。バットマンはジョーカーに抗ってこそいるものの、ジョーカーの幻覚に苛まれることになる。
そのジョーカーの演出もまたかなりキレており
- 建物のフチに
- 入ったダクトに
- ドアを開ければその先に
- 秘密基地に降り立った筈がバットガールが半身不随になる現場
- 交通事故を起こしたトラックから出た筈が両親が死んでいる
- 敵の顔がよく見るとジョーカーになっている
- ジョーカーの群れに襲われる
など、多彩かついちいちクリティカルだ。何よりシナリオの進行に合わせて非常に細かくセリフを入れてくる上に、退屈な筈の移動時間を全て使ってくる。だが「内なるジョーカーの声」は即ちバットマンの恐れ、恐怖、トラウマ。バットマンはそれに言い返す事はしない。
この手法は後年、サイバーパンク2077のジョニー・シルヴァーハンドにも用いられている。シナリオの重要な人物が後ろをダバダバ付いてくるわけでもなく、かと言ってずっと無線でペラペラ喋るわけでもない。無線でポエムを垂れ流してくるわけでもない。そしてこの「内なるジョーカー」がいることは、バットマンしか知らない。ヒーローの苦悩はヒーローだけのもの、というストーリーに非常に沿った構成だ。
この「どこでもジョーカー」はシナリオの最終局面でも存分に生かされており、スケアクロウの恐怖ガスにより主導権をジョーカーに渡してしまうパートでは「キリングジョーク」による虐殺に始まり、恐怖ガスを注入したスケアクロウですらその訳の分からなさに恐怖する。そして「内なるジョーカー」の抱えた本当の恐怖は「皆に忘れられること」である事を暴き、ブルース・ウェインが両親の死をずっと忘れられない事、そして周囲の誰かが傷ついていく事だと暴く。ずっと苛んできたジョーカーを克服し、内なる狂気に別れを告げる。誰よりも一番闇を恐れていた男だからこそバットマンになった彼が、”I am vengeance. I am the night. I am Batman.”と言の葉を紡ぎジョーカーを心の牢獄に封印する。最早スケアクロウの恐怖ガスなど効くわけがない。今の彼に恐れるものなどなにもないのだから…というメインクエストの終わりにビタリとハマっている。
では「世界」への影響はどうか。やはりここも非常に良く出来ている。拠点を壊滅させ、ヴィランを捕まえればゴッサムの留置所はパンパンになる。出入りする度に各種クエスト進行の度にそのヴィランの部下がぴったりな罵詈雑言を浴びせてくる。各クエストの「シバく対象」の人々はほぼ同じ会話をせず、ヴィランからの指示について雑談をしたりヴィランの印象について話している。目障りな爆弾も戦車も少しずついなくなり、燃え盛る建物も物騒なヘリもいなくなる。空を飛ぶ重武装ドローンを撃墜すれば上空を警察の偵察ヘリが巡回するようになり、街は治安を取り戻していく。
ここが重要だ。アーカムナイトはたった一晩の物語で、毒ガスが撒かれようが何をしようが翌朝またロクでもない街に戻らねばならない。ハロウィンの到来を祝したカボチャのモニュメントは壊されぬまま朝を向かえねばならない。かといってどんよりとした月夜のままではなく、Mrフリーズ関連の物語では雪が降り、そしてポイズンアイビーが最後の力を振り絞った後には綿毛と花びらが天から降り注ぐ。アーカムナイトの舞台となる街は、空っぽなんかではない。ダークナイトは「この街の人々が助けを呼ぶ限り」戦い、そしてゴッサムシティはそれに精一杯応えていくのだ。
バットマン:アーカムナイトはオープンワールドとして一度極まった到達点であり、そしてバットマンの一つの終わりを描くゲームとしても極まっている。一度極まってしまったからこそ、後年のゲームは「移動」も「サブクエストへの導線」も、バットマンを超えねばならなくなったのだ。と、8年寝かしてからプレイしたからこそ見えたものがあった。
11月3日まで激安となっているので、もしプレイしていないのならこの機会に是非触れてみるべきだ。アーカムアサイラムとアーカムシティは日本語化MODが必要なので、MOD導入に抵抗がある場合は家庭用のアーカムコレクションがオススメだ。
PC版のアーカムシリーズはGeForce 搭載PCで遊ぶと、家庭版よりも更に演出が追加され、紙が舞ったり外壁がボコボコ崩れたりするので、個人的にはできるだけPCをおすすめしたい所。是非遊んでみてほしい。
また、バットマンの映像作品をまだ一つも見たことがないのであれば、上記2作品がオススメだ。これを気に見てみるのもいいだろう。バットマンを見るか、バットマンになるか、どちらが先でも然程問題ではない。こんな記事を読んでしまった時点でもうバットマンが気になって仕方がないだろうからね。
余談:
アーカムナイトはFreeStyleでのSSRTGI、及びSSAOに対応している。
分からない人向けに説明すると、GeForce搭載PCで好きに色味やフィルタをゲームにかけて遊べる「FreeStyle」という機能の内、限られた対応タイトルでしか使えない機能だ。SSRTGIは発表当初「何でもレイトレ対応機能」、SSAOは「何でもしっかり影落として画面をハイコントラストにする機能」と紹介されていた。せっかくの対応タイトルなのでたまにはAlt+Zを押してGeForce ExperienceのOSDから実行してみることをおすすめする。
しかしながら3950X+2080Tiの環境でアーカムナイトにSSRTGIとSSAOを適用した所、フレームレートが極端に落ち30fpsを割るシーンが出てきた。もしかすると4070以上のGPUであれば快適に使えるかも知れないので、この冬のPC刷新で何か面白い結果をお伝えできればと思う。