ゲームオーバーという「台無し」をもう終わりにしよう

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 『ゼルダの伝説:ブレスオブザワイルド』でもそうだが、任天堂は慣習となっている「アタリマエ」をどんどん見直して「洗練」させていくことに本当に余念がない。今回任天堂が葬ったのは、「残機制」。すなわち「ゲームオーバー」そのものでした。

 

ところで下の話は比較的どうでもいいので『エロマンガ先生』を観てください。すごい面白いです。特に4話と7話。っていうか今7話観てる。はぇ~~~エルフ先生がメインヒロインかと思いきやちゃんと紗霧ちゃんがメインヒロインしてきた~~~すげ~~~~~~~~~~~~~~~!~!!!!!!!!!!!

 

事実上の時間貸しであるがゆえに

 残機制そのものは遡ればアーケードゲームの1クレジット制であり、もっと戻ればピンボールの1ゲーム辺りの球数(3個とか5個とか)、更には射的の球数やらアーチェリーの矢やら打ちっぱなしゴルフ練習場やらバッティングセンターとかアトラクションとして書けば限りがなく、そういう料金制度に起因します。場所に出向いてお金を払って規定回数だけ遊ぶ。規定回数分遊んで物足りないなら追加料金を支払って続ける。そういうところに端を発しています。

 上手に遊べば1クレジットで長いこと遊べる。遊ばれ過ぎてもいけないのでステージ数は限られており、ミスを重ねれば残機が減ります。そして残機が無くなった場合、プレイヤーは「コンティニュー」か「ゲームオーバー」を選ばされるという仕組み。「コンティニュー」の場合は現状を保存したままゲームが続行されます。「ゲームオーバー」を選択する場合、ゲームは初期化されます。

 コンティニューするということは更にその機械を使って遊戯を続行するということです。当然、それ相応の料金を支払う必要があります。進行度を保存したまま更に遊べるというのは、ゲームをアトラクションとして楽しむ人には嬉しい仕組みですよね。

 

すぐ死んで先に進めず残機も尽きてゲームオーバーになるから高難度という文脈

 さて、その残機制。アーケードゲームが家庭用機に移植されても当然採用されますし、またアーケードゲームの文脈で作られた家庭用機向け作品でも同じでした。ボタンを押してクレジットを追加してコンティニューを可能に出来る作品ならまだしも、「残機制だがクレジットの投入及び同等の機能は搭載していない」場合、どうなるでしょう?

 答えは「残機を使い切った時点でゲームが強制的に初期化される」です。ゲームオーバーは意味を変えました。ゲームオーバーとは「リセット」になったのです。ステージ選択制のゲームの場合、残機制は「ステージ内で許されるミスの数」となり、ゲームオーバーとは「そのステージの進行状況のリセット」を意味するようになりました。

 マリオも当然その文脈の上にありました。ステージだけでなくワールドそのものの進行状況もリセットされる『スーパーマリオブラザーズ3』、ステージクリア毎にセーブが可能な『スーパーマリオワールド』からは残機というのは「ステージ内で許されるミス数」となりました。

 ところで、『ロックマン2』をテーマにした楽曲『エアーマンが倒せない』をご存知でしょうか?この曲の中で『ロックマン2』はこんなふうに歌われています。

気がついたら おなじ めんばかりプレイ

そして いつも おなじ場所で死ぬ

あきらめずに エアーマンまでたどり着くけど すぐに残機なくなる

だから次は絶対勝つために 僕はE缶だけは最後まで取っておく

 残機制かつクレジット追加が不可能であるが故、ヒートマンステージの消える足場の箇所が超えられず、アイテム2号(空中含め横方向に移動可能な特殊アイテム)の獲得のためにエアーマンステージに挑むも、最後に待つエアーマンとの戦いでE缶と残機を使い果たしてしまい、結局クリアが出来ない。そのエアーマンを倒すためのリーフシールドを貰えるウッドマンも倒せず同じステージをプレイする羽目になる。という歌です。 ロックマンに限らず、「むずかしい」というのは「リセットされるためコース全体を通じてミス数が制限されている」という意味でした。

残機、『スーパーマリオ64』時点で早くも形骸化

 結論から言うと中間ポイント(チェックポイント)も何もクソも存在しない*1時点で残機も何もへったくれもないんです。残機が0になるということはセーブしたところからのやり直しな訳だけど、ステージ間で何か持ち越す訳でもなしに一度タイトル画面に戻された所で何のペナルティにもなりゃしないわけです。強いていうとピーチ城の中をまた歩いて絵の前に行くのがペナルティ。そんな訳があるかいな。

 それを作る側もとっくにわかっていて『64』の場合、コイン100枚で1UPでなくスターが出ますし、コインを持ち越さずに「ステージの中に配置されたコインを100枚取りきれるか?」というチャレンジになっています。1UPキノコはゲーム内でほぼ意味を持ちませんし、彼は「過去にあったから入れてあるだけ」の慣習としての存在でしかありません。極めつけにヨッシーがバカみたいな勢いで残機を増やしてくれます。強いていうとアレから逃げることが一つのエンタメになったりします。幕末志士、好きです。

トライ&エラーそのものの面白み、クイックセーブ&ロードで良い説

 ここで話を一気に『DOOM』辺りに持っていきましょう。別に『Half-Life』でも構いません。ボスというひとつの強敵であれ、凶悪な敵配置の箇所であれ、「そこを超えるのがむずかしい」という体験の話をするならば、別にアーケードライクな「残機」の話をする必要はないのです。チェックポイントを自らセーブで設定させ、死ぬなり手詰まりなりでロードさせれば良い。なんなら定期的にオートセーブしてチェックポイント代わりにファイルを作ってやって安心して死ねるようにする。idもValveもそういう割り切りでもってゲームを提供しました。もう20年ほど前の話です。

 『ゼルダの伝説:ブレスオブザワイルド』は上記の方法を採用しています。高速とまで言わなくても死んだ直近のセーブポイントからサッと復活さえすれば良い。故にガーディアンもボコブリンもリザルフォスも容赦なく殺しに来る。『ブレスオブザワイルド」にリセットはもういません。

 慣習として「ゲームオーバー」の表記こそ出せど、そこにはもう「長いシークエンスやステージの最初からやり直し」の意味はなくなっていたのです。なんたってフリーコンティニューですから。*2

トライ&エラー、「チェックポイントでいいでしょ」勢、登場。

 PS2の時代に移っても頑なに「ミッションを最初からやり直す」「それかセーブした所からやり直せ」という選択をプレイヤーに迫るゲームもあれば、ステージ内に大量のチェックポイントを配置し「やり直せるタイミングをたくさん作った。残機じゃない。ここからここまで来れたら凄い、さあ存分に死ね」というゲームもありました。Xboxでリリースされた『HALO』がそれの最も成功したものの一つといえるでしょう。

 言うならば「あきらめずにエアーマンまでたどり着いた」なら、「エアーマンに何度でも挑めるよう、直前の部屋からいくらやり直したっていい」という時代が21世紀初頭には到来しています。その代わり何度でも殺す。快適に復活できる分容赦なく殺す。残機制を取っ払い、「ミス数の制限」を取っ払った結果、むしろゲームは快適にプレイヤーを殺すようになったのです。

 Call of DutyシリーズがPS3及び360でリリースされる頃には、もうほとんど「残機」どころか「ゲームオーバー」の姿はありませんでした。細かく区切られたシークエンスの最初に戻されたりこそするものの、わざわざ「ステージの最初に戻す」というのはナンセンスです。せっかくその場所までたどり着いたのに、ミス数が規定に達したからと言ってやっとここまで来たことをふいにしてしまってはリスタートが重くなってしまうのですから。

快適なコンティニューの時代へ

Xbox 360ゲームレビュー「TRIALS HD」 - GAME Watch

「難しいゲーム」は全体を通じたミス数でなく、「その場所をどう越すか」という方向に洗練されました。それの代表例が09年にリリースされた『Trials HD』です。このゲームの恐ろしい所は、ボタン1つで直前のチェックポイント、もしくはステージの最初からアッという間にやり直せることです。

 ボタン一つでやり直せるゲーム、死んだら即座にコンティニューするゲーム、アスレチックをやるにしても激しい一撃死アクションをするにしても、その死までの過程を「台無し」にする必要はありません。むしろ快適にコンティニューさせます。そして容赦なく殺します。

 ここまで読んだ貴方にはもうお分かりでしょうが、「ゲームオーバーによるリセットが無い」からといって「簡単なゆとりゲーである」だなんて断じると、今は豚やニワトリのマスクをした殺人鬼に頭をカチ割られる世の中になってきたようです。ヒゲを生やしたオーバーオールの男に上から踏みつけられる前に分かってよかったですね。

 

 さて、今一度、『スーパーマリオオデッセイ』について目を向けてみましょう。『スーパーマリオオデッセイ』にゲームオーバーは、ありません。残機もありません。古くからの慣習を引きずってきたマリオが、「ゲームオーバー」という名の「進行度のリセット」をやめることを宣言しました。

 もう、全体でのミス数そのものを制限する「ゲームオーバー」で、今までのプレイを台無しにする必要は無いのではないでしょうか。時にはクリア出来ないステージだって、スキップしても良いんじゃないでしょうか。マリオからGTAに至るまで、失敗を繰り返せば一先ずその箇所を遊んだことに出来るシステムだって搭載されている世の中です。死にすぎたんなら先に進んでいいよと言うのでなく、死にすぎたからお前はやり直せと罰を与える必要もないんじゃないでしょうか。

 その上で「君はスキップするんだね」とキャラやシステムが煽ったり、未プレイの証が出たり、実績やトロフィーが獲得できなかったり、コンティニューした回数でランク付けしたり、コンティニューを使用したことによるタイムロスを勘案してスコアを算出したり、コンティニュー仕様時点でスコアが一度0になってしまったり、また別のやり方でプレイヤーを褒めたり認めたりしていけばいい。私はそれでいいんじゃないかなと思っています。

 

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド

 

 

 

Splatoon 2 (スプラトゥーン2)

Splatoon 2 (スプラトゥーン2)

 

 

 

 

 勇者だってやっぱり復活した時にゴールドが半分になってるのは悔しいですよね。その悔しさだけで良いんじゃないかなって思うんですけど、それって「ゆとり」ですか?

 

*1:砂漠のピラミッドとかほんと特殊案件

*2:とは言え別ゲーと言っても過言ではないイーガ団だとか、そういう要素が残っているのは確かです。アレほんと面白くなかったなあ