スパイダーマンの忘れ物。あるいはピーターパーカーの墓標について。

 ゲームの収集要素と聞いて何を思い浮かべるだろうか?人によってはDKと描かれたバカでかいコインかも知れないし、亡き弟が好きだった羽根かも知れない。数を集めたらゲームから褒めてもらえて、ついでに何かしらの強化アイテムが手に入る。まあだいたいそんなところだろう。f:id:crs2:20211024004809j:plain

 今日書きたいのは、そんなゲームの数ある収集要素の一つから、「マーベル スパイダーマン」より「バックパック」の話をしたい。これはゲームの序盤から開放されるもので、それに纏わるトロフィー名が「忘れもの」である事から分かる通り主人公のピーター・パーカーがスパイダーマンとして活動する上で各地のロケーションに張り付けたまま置いてきた物を集めよう!というものとなっている。

 まあそれぞれの元ネタについては凄いオタクが書いてくれているので読むと良い。

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 が、ぶっちゃけそんな事は知らなくても良い。「マーベル スパイダーマン」のピーター・パーカーは既に23歳。15歳の頃からスパイダーマン活動を始め、既に8年が経過している。

 まず前提として、スパイダーマンについて本当に何も知らない人向けに知っておいてほしい事として…スパイダーマンは基本的に「誰にも正体を明かさない」タイプのヒーローだ。だから事件が起これば「急に居なくなり」、事件が終わると「何処からか戻ってくる」のがピーター・パーカーの周囲の人々から見たピーターの印象となる。友人が「あのスパイダーマン凄かったぜ!」と言えば「ハ、ハハハ…そうだね…」とはぐらかす光景、何となく想像がつくだろうか?

 「特殊能力が手に入ってしまった」「敵が出てきた」「ヒーローとして戦った!もう彼はヒーローなのです!(ババァーン)」というよくある流れをその手の界隈の用語では「オリジン」と言う。このゲームのスパイダーマンにとって、そのオリジンは既に遠い日の話だ。そのスパイダーマンが、そしてピーター・パーカーがどんな事をして来たかを何より雄弁に語っているのが、この「バックパックの忘れもの」達である。

 

 バックパックの中身は二種類に分けられる。スパイダーマンとして戦う中で手に入れたもの」「ピーター・パーカーで居られなくなり、置いていったもの」の二種類だ。試作品のウェブシューター(糸を飛ばすアレ)だとか、ヴィランにまつわるアイテムだとかは前者であり、スパイダーマンの戦いの歴史そのものだ。これが敵を倒すキッカケになったとか、そういう事を入手時にピーターが説明してくれる。

 

 じゃあ、後者の話をしよう。

例えば「高校のTシャツ」だ。「洗うつもりだったんだ。…6年前に!」とピーターの解説が入るが、高校生の体操着を置いて、彼はスパイダーマンにならなくてはならなかった。

例えばMJ(ヒロインのニックネーム)との「初デートのメニュー」もそうだ。恋人とレストランで食事している時に飛び出して、その時に置いていったのだろう。

例えば「プロムの花」もそうだ。ハイスクールの卒業を控えたパーティの最中にだって彼はスパイダーマンにならなければいけなかった。

「大学での教育助手をやっていた時の名札」も、「大学の卒論」も、彼は置いていかざるを得なかった。つまりそれは、ピーター・パーカーという青年がピーター・パーカーとして生きていく「将来」の事も置いて、スパイダーマンとして戦って来たことを意味していた。

ピーター・パーカーは、それらの「忘れもの」について語り、そして懐かしむ。

「死んだ両親の写真が収められたロケット」を、「死んだベンおじさんと一緒に見に行ったバスケの試合のチケットの半券」を、「退職した時に貰ったメッセージカード」を、「恋人と二人で住むと思ってたアパートの申込書類」を忘れて、ピーター・パーカーはスパイダーマンとして戦った。

バックパックの忘れもの達は何より雄弁に語る。ピーター・パーカーの過去を。そして、ピーター・パーカーがスパイダーマンで在るために、置き去りにしていったものを。

 

 

 恋人とデートをし、当たり前の青春を送り、記者をやりながら大学に通い、教鞭を取りつつ科学で「みんな」を救うための研究に取り組む。そんなピーター・パーカーの人生があり得たかも知れない。だが、スパイダーマンで在る為に、ピーターはそれら全てを捨てざるを得なかった。ゲーム内での収集アイテムを集めるうちに見えてきたのは、まるで「ピーター・パーカー」という少年の墓標とでも言うべき残骸達だったのだ。

 

 

 さて、今回は収集アイテムである「バックパック」の話のみに留めたい。まだ遊んでいないのであれば、ぜひPS4なり5なりでプレイすべきだ。「爽快!」とか「移動が凄い!」しか知らないのであれば、超一流の「語り方」があなたを待っている。

 バックパックの忘れ物達は大学での卒論を経て、23歳になったピーター・パーカーがオットー・オクタビアス博士の助手として働くことになったゲーム開始時までのバックストーリーを描いている。子供の頃からの憧れだった博士の助手だ。世界を変える発明も目前で、ようやくピーターは小さな夢を一つ叶えようとしている。そんなピーターを待ち受けていたのは……

 

 「マーベル スパイダーマン」は、「スパイダーマンがドクター・オクトパスを倒す」の物語だ。それ以上でも以下でも無い。ただただ、「スパイダーマンがドクター・オクトパスを倒す」物語なんだよ。